十六章 終わらぬ鍛錬

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   どうしたものかと思考を巡らせる。  後を付けて来る気配の持ち主は、知らぬ人物ではない。今朝会ったばかりであり、まだ二回しか会話をしたことのない人物であるが、後を付けられている理由に全く心当たりがないわけではない。  しかしながら、声をかけて来ることなく、ひっそりと後をつけているつもりらしいその人物に、わざわざこちらから声をかける理由はない。  咲夜は気配を薄めた。後を付けてきていた人物の気配が慌ただしくなる。焦った様子でこちらに駆け寄ってくるその人物の姿がちらりと見えたが、気にせず近くの家屋の屋根の上に跳び乗った。  完全に気配を消し去り、屋根の上からその人物を見下ろす。辺りを見回していた小柄なその人物は、やがて肩を落とし、北の方へと去って行った。  彼は何がしたかったのだろうか。状況から推測するに、からわざわざ後を付けてきたのではなく、あの小さな食堂を出て歩き始めたところを見つけて、後をついてきたのだろう。  彼に直接聞いたところで、何がしたかったのか素直に答えてくれそうにない。争いごとや揉め事は避けたいのだが、どうすればいいのだろうか。翔に話してしまうと、また彼女の気分を害してしまいそうだ。  咲夜は音にならないため息を吐きだすと、屋根から屋根へと飛び移るようにして、宿泊している宿へと急いだのだった。 .
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