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「リュース君」
周囲に人がいなくなったからか、いつ戻りの口調で話しかけてきたユリアスは、リュースと目が合うと柔らかく笑む。
再び顔に熱が集まってきたリューティスが目をそらすと、くすくすと笑われてしまった。
「リュース君、可愛い」
ユリアスのその言葉に対して言い返す気も起きないリューティスは、無言のまま、ユリアスに頭を撫でられたのだった。
ユリアスと二人で庭園をまわって東屋に戻ると、仏頂面の公爵と気まずそうに小さく縮こまった玲姫の姿があった。
「……玲姫」
リューティスが名を呼ぶと、彼ははっとこちらを振り返り、それから気まずそうに目をそらす。
「リュースさん、その、俺」
「玲姫」
リューティスは首を横に振った。人の感情の変化は制御できるものではない。しかし、感情に伴う行動は理性によって制御できる。
「ユリは俺の婚約者で、俺の唯一の相手だ。玲姫にとってもそうであったとしても、俺は譲れない」
はっきりと言い切る。
「玲姫が遠慮して引く必要はないよ。でも、俺は譲らない」
リューティスは現状、玲姫の保護者的立場である。圧力をかけて彼を退かせるのは簡単だ。リューティスと玲姫の力関係は瞭然としている。だが、彼女との関係に関わることがらに、後ろめたい手を使う気はない。
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