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話が一段落したところで、紅茶に手を伸ばした。ほのかに甘い香りに、わずかに頬を緩めた。
「リュース様」
公爵との会話中、沈黙を保っていたユリアスが、ようやく口をひらいた。
「話が変わりますが、セドリックと大野がリュース様の新しい文官について気にしていましたよ」
「……ファントリアさんのことですか」
公爵から文官を探すように指示されてからまだ数日。ファントリアはこちらに来るための準備に忙しくしている頃だろう。
「はい。いつ頃いらっしゃるのかと、それまでに部屋を整えておく必要があると、気にしている様子でした」
リューティスははっとした。ファントリアがいつこちらに来るのかわからない現状では、セドリックも大野も動きづらいのだ。彼らへの配慮を怠ってしまっていることに気が付き、自己嫌悪する。
気が付いたからには、速やかに対処せねばならない。リューティスは念話魔法を発動させた。繋いだ先は、もちろん、ファントリアである。
『──ファントリアさん』
『っ……リューティス様』
あちらから少々驚いた気配が伝わって来た。
『突然すみません。今、少しお時間よろしいでしょうか』
『もちろんでございます』
ファントリアから迷いのない即答が返ってきた。慌てる様子も焦る様子もない。丁度、手が空いていたのだろうか。
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