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「中学の時、銀先輩てかなり荒れててさ、日常的に誰かと喧嘩したり、教師と揉め事起こしたりして、不良生徒として学校では有名だったんだよ。一回、停学処分になったこともあったし」
ほう。思わず彼女らの方へ顔を向けるところだった。変な奴だとは思っていたが、まさかそんな過去があったとは。
「えぇ⁉︎」と女子Aは目を大きく丸める。それもそうだろう。何しろ、彼女が思い描いていた銀に対するイメージが、クリーミーから一気にスパイシーへと一転したのだから。
「本当に銀先輩て昔グレてたの⁉︎ 全然そんな風に見えないんだけど!」
意外ではあったが、僕はそれほど驚かなかった。まあ、人間誰しも見た目で判断していけないということだ。もし今隣に立っている地味な眼鏡男子が、実は全国で有名なヤクザの息子だと知ったら、二人とも驚くどころじゃ済まないだろう。
「私も入学して、先輩がかなりマイルドになってたからびっくりした。まあ、高校に上がって反抗期も落ち着いたんじゃない? だとしても、中学時代を知ってるから、どうしても私的に先輩は恋愛対象には入らないけど」
女子Bが苦笑する。先ほどのガールズトークのテンションはどこへやら、女子Aは意気消沈していた。割と彼女の中で、銀は意中の男子だったのだろうか。
「うん……、私もさすがにそれ聞いて冷めた。やっぱり、顔よりも中身が大事、てことか」
「そういうことですな。あ、バス来たよ」
10分近く経っただろうか、やっとバスが到着した。乗車するバスは彼女らと同じだったが、僕は乗らなかった。
どうやら、イヤホンを教室に忘れてきたようだ。
別に一日なくても困らないが、どうやらウチの学校では、定期的に抜き打ちで机の中を点検される日があるらしい。たまたま休み時間に他の生徒が話しているのを聞いた僕は、念のため机の中を空にしていたつもりだったが、うっかりイヤホンだけを置いてきてしまった。
皆こっそり持ってきてはいるが、一応校内でイヤホンの持ち込みは校則違反だ。当然、バレたら没収対象になる。
結構値段の張ったイヤホンなので、没収されるのは困る。やれやれ、面倒だが一旦学校に取りに戻るしかない。
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