パンダ、そして再会

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パンダ、そして再会

 ホームルーム後、全校集会、学年集会と、新学期お決まりのイベントが終わった。  何故、毎度わざわざ全校生徒、各学年と集会を分けて行う必要があるのだろう。学年問わず、言いたいことは共通している。「勉学や部活に精を出し、節度を守って学校生活を過ごすこと」。  しかし、そんな茶番のような時間も、授業の代わりだと思えば幾分マシだ。  それに、この一連のイベントを我慢してしまえば、昼には帰宅できるので、生徒にとってはむしろ好都合とも言える。  放課後になり、生徒が一斉に帰り支度を始める。真っ先に教室を出て直帰する者、カラオケに誘う者、既にクラス内でグループを作る者、隣のクラスに顔を覗かせる者、等々。  各々が、通常より早めの放課後時間を楽しんでいた。僕を除いて。  現在、僕の目の前の席には今朝のパンダ、もとい、(しろがね)が向かい合って座っている。  案の定、帰りの挨拶が終わった瞬間、奴は「黒鳥くん」と声を掛けてきた。当然、僕が逃げる余地はない。  最悪だ。  奴は涼しげな表情でこちらをじっと見つめている。眼鏡越しに映る薄茶の瞳からは、何を考えているのか窺うことはできない。制服を気崩し、少し気だるげに椅子の背もたれに肘をついている姿は、どこかアンニュイな雰囲気を醸し出している。  同じく眼鏡を掛けていても、印象とはこれほどまでに異なるのか。自分を卑下する訳ではないが、感心する。  未だに、こいつが今朝の奇天烈なパンダ野郎である事実が、疑わしく思えるほどに。 「にしても、驚いたよ。まさかキミと同じクラスだったなんてさ」  不意に奴が口を開いた。それはこっちの台詞だ。口には出さないが。 「同じクラスメイトとして、改めて自己紹介。俺は銀哲太(しろがねてった)。ギンタでいいから。よろしく、黒鳥くん」  奴はまた僕に手を差し伸べるが、僕の手は机の下に引きこもり中だ。しかし、こいつもしつこい。左手を宙に浮かせたまま、話を続ける。 「そういや、俺が今朝あげた風船どうしたの?」 「空に飛ばしたよ」 「うわ、ひどい。椅子に括り付けてくれてもいいじゃん」  誰がそんなことするか。しかしこいつ、冗談で言ってるのか、はたまた本気なのか、判りづらいところが怖い。  やれやれ。このままではいつまで経っても解放してくれそうにない。とりあえず、何でもいいからこいつに聞いてみるか。 「ていうか、今朝の恰好なに、あれ」 「え、今朝のって?」  すっとぼけた顔をするな。絶対分かっているくせに。 「……パンダのこと」 「ああ、パンダね」  愛くるしさの欠片もない目つきをした人間に、「パンダ」なんて可愛い単語を言わせるのがそんなに楽しいのか、こいつは。  少し目を細めながら微笑む(いや、正確にはニヤついてる)(しろがね)を見て、思わず舌打ちしてしまいそうになるが、我慢する。  こいつ、顔に似合わず結構性格悪いんだろうな。 「だって部活の勧誘に大事なのって、まずはインパクトじゃん。だから可愛い着ぐるみでも着ておけばさ、人は自然と集まってくるかなーって。それに俺、人生で一度は着ぐるみ着てみたかったんだよね」  その結果、新一年生は皆気味悪がって、誰もパンダに近寄ってこなかったわけだが。 「で、人生初着ぐるみの感想は?」 「暑かった。もう着なくていいかな」  それからやや沈黙が続く。春風の強さに、校舎側の窓がガタガタと音を立てる。僕は続けて質問した。 「そもそも、なんで僕に付きまとうわけ?」 「それはもちろん、黒鳥くんを勧誘したいから」 「だとしてもさ、別に僕にこだわる必要なくない? 入部してくれそうな人、もっと他にいるでしょ」  すると、(しろがね)は握手を求めた手で僕の顔を指差した。その刹那、奴の瞳に光が宿った、気がする。
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