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憩い、そして症候群
昨日の放課後での出来事は忘れられたかのように、今日も相変わらず銀は僕に付き纏ってきた。
登校時に校門前で待ち伏せされたり、移動教室も共に行動したり、昼休みも僕の机の側でご飯を食べたり、おまけにトイレまで付いてきたり──。
とにかく鬱陶しすぎる。
一応こいつなりに気を遣っているのか、「トンボ倶楽部」については触れてこないが、授業が終わる度に「黒鳥くーんっ」と僕の席まで寄ってくるのだ。
女子校生だと、よくトイレに行く時も一緒にいると聞いた事はあるが、女子も流石にここまでしつこく一緒には居ないだろう。
もちろん銀のことは全て無視していたが、五限目までこれが続くとなると、そろそろ精神的に限界が来ていた。
「うるさい」
五限目終了のチャイムが鳴った瞬間、案の定話しかけてきた銀に、思わず反応してしまった。
「お、やっぱ返事してくれると思ってた」
本当は帰るまでずっと無視を決め込むつもりだった。が、無視できるほどの余裕がなくなってしまうほど、「パンダ症候群(勝手に今命名した)」に侵されていたようだ。
「返事というか、突き放そうとしてるんだけど。昨日の鬱憤晴らしに、僕のことノイローゼにでもする気?」
「そんなまさかー。確かにクラブの件はまだ諦めてないけど、今日はキミと単純に仲良くなりたいと思ってさ」
「仲良くなるどころか、自分から嫌われるよう仕向けてるとしか思えないんだけど」
ふむ、と銀は顎に手を添える。考え込んだ素振りで、口元に指を挟み、もにゅもにゅと唇を動かす。
「そんな堅いこと言わない。本当、思った以上に気難しい少年だよな、キミ。そんなんだと友達できねーぞ」
「別に、友達欲しいなんて思ってないんで」
僕の返答に、銀は「えっ」と声を上げる。そんなに意外だったか?
「まさか、卒業まで? 一人も作らず? ぼっちのまま?」
「そうだよ」と僕は頷く。友達なんて作ったところで、極道の息子なんて知られたら、皆掌返して僕の元から去っていくだろう。だったら、そんなもの、最初からなくていい。
いいから大人しく席に戻って、と言うより先に、銀が口を開く。
「それでいいの? お前の高校生活、つまらないまま終わって」
つまらない、か。確かに否定はできない。
「地味で、普通で、平凡な生活」──、それは言い換えれば、高校時代の青春を全て捨てる、そんな生活とも言える。
「いいんだよ。別に高校生活に憧れとかないし。僕にはそれぐらいが丁度いいんだから」
「ふーん、やっぱお前って変な奴だな」
コイツにだけは言われたくない。
ふいに、六限目開始のチャイムが教室に鳴り響く。
そんじゃ、と銀が自分の席に戻って行った。
本当に何をしに来たんだコイツ。
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