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満場の拍手の中、初日の公演は終わった。
「うまくなったなあ」
感嘆する玄哉の声は耳に届いていたが、蒼士は一心に舞台上を見つめていた。
大きな拍手を贈る。
この舞台を作り上げたスタッフと、俳優たちと、何より、暖に向けて。
暖が、俳優として大きく進歩した瞬間を見た。泣きそうになった。
映像に向いていると思っていたが、舞台では、観客が目の前にいるからこそ、暖の存在感が際立つ。
悲しく、滑稽で、自分も身につまされるような切なさを抱えた役を、暖は演じきった。
誰もが抱える苦しさを、寄り添って溶け合わせて、少し薄めてくれたような、そんな舞台だった。
終演後、玄哉が楽屋で暖と会っている間、やはり初日を見ていた社長と話をした。
「ほら、大丈夫じゃねえか」
「大丈夫、でしたか」
確認するように言った蒼士に、社長は豪快に笑う。
タブレットを出して、何かのファイルを開く。
「大丈夫どころか……、お前、この時カメラの奥にいただろ」
決めつけるように言って見せてきたのは、写真集の表紙データだった。
元テーマパークの美しい廃墟を背に、まっすぐ前を見る暖が立っている。
その視線には、切ない熱と、いつものような微かな傲慢さと、愛しさが滲んでいる。
蒼士は赤面した。実際に、咲山の指示で蒼士はカメラの真後ろにいたのだ。
「これは売れるぞ」
にやっと、含むように笑って、社長は蒼士の背を叩いた。
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