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蒼士は、暖の部屋のソファに所在なく腰を下ろしていた。
家の前まで送り届けて帰るつもりだったのだが、興奮した声で「本読み付き合って」と言われれば、断ることも出来なかった。
暖は、二十五の若者が済むには広い部屋の中で、蒼士に背を向け部屋着に着替えていく。
モデルの現場の後は特に、帰宅後すぐに楽な格好に着替える。
ためらいもなくさらされた広い背中から、蒼士はそっと視線を外した。
「蒼士さんも、ジャケットとかネクタイとか楽にして。お茶淹れてくるね」
暖は蒼士を振り返らずにキッチンへ行ってしまう。
暖に人気が出始めてから、事務所側が探した部屋だ。
暖自身はもっと狭い所でいいと言ったが、セキュリティ面で安心できることと交通の便などからここに決まった。
蒼士は衣服を一切緩めず、自分の鞄から台本を取り出す。事務所のチェック用に複数部送られてきている。
「待って! 先に読まないで!」
暖は悲愴な声を出してキッチンから蒼士を止める。
それに少し笑ってしまった。
いそいそと戻ってきた暖は自分のマグカップをローテーブルに置くと、もう一つを蒼士に差し出した。
受け取ろうとして、指先が触れた。
どちらともなく、一瞬体が固まった。
カップの水面が揺れる。蒼士はとっさに謝った。
「ごめん」
「ううん」
ティーバッグで淹れたらしいほうじ茶を一口飲むと、視界が湯気で煙る。
そのぼんやりした視界の端で、暖がこちらを見ているのを感じる。
視線を上げると、逸らされた。
仕事柄、二人きりになることはとても多い。
だが、暖と蒼士は、この三年ずっと、どこかぎこちないこの関係を共有してきた。
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