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それから二日後、俺はミユって女からもらったキャンディーを舐めながらキャンパスをうろついていた。紅葉し始めた構内の木々がきれいだった。三限目までまだ間があるな、とか思いながらぼんやり歩いていると、素っ頓狂な声が俺を呼んだ。
「ミントくーん!!」
は?
遠くから青い髪を馬のたてがみみたいになびかせて、あのおかしな女が走ってくる。
「あ、キャンディー舐めてくれてる! それ美味しいでしょ? 桃の味で一押しなんだよ」
何の用かと思えば、息切らしながら最初に言うのがそれかよ。
「……お前、キャンディー屋の回しもんなの?」
「違うよ! キャンディー愛好家なんだよ。キャンディーラヴァーだよ、キャンディーラヴァー!」
変にいい発音でキャンディが好きだという。
「で、俺に何の用だよキャンディーの愛人が」
「三時間目詩の歴史の講義取ってる? ミント君と一緒に行こうと思って!」
むちゃくちゃ笑顔で言ってくる。良くねーよ。俺が断ると思ってないのか?ちょっと待った、それ以前に。
「あのさ、そもそも俺の名前ミントじゃないんだけど」
「じゃあ何て呼べばいい?」
「サトウユウジ。だからせめてサトウ君とかって呼べよ」
「えー? ミント君じゃダメ? サトウ君じゃたくさんいすぎるよ」
「うるせえ、色で呼ぶなよ人を」
「かわいいのになー、ミント色」
「お前は何て呼ぶの?キャンディージャンキー?」
「違うよ、ミユって名前があるもん」
ちゅぱっ、と音をさせてミユがチュッパチャプスを口から引っぱった。男の前でエロい音立てて何やってんだコイツ。口を尖らせてチュウチュウ吸うなよ!! 小学生かよお前は。
「これは、ストロベリー味!」
うわー、その説明いらねー!!
「お前、マジで変だって言われるだろ」
もう笑うしかなくて、吹き出しながらそう言った。
「そんな事無いよ。ただ、キャンディーと詩が好きだね、って言われるけど……」
俺と同じ詩の専攻か。
「それ、変人って言われてんだぞ」
「そんな事無いよ! 失礼だねユウジって」
「なあ、ミントには”君”がついてんのに、俺の名前はいきなり呼び捨てなわけ?」
「え? ユウジ君、がいい?」
「あ、やっぱ気持ち悪りぃからいいわ」
結局、俺たちは一緒に三限目の講義に行くことになった。
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