冬の雨宿り

2/2
前へ
/27ページ
次へ
 シャワーから出た俺に、ミユが大きな声で言った。 「あ、ユウジ、お湯湧いたから勝手にお茶淹れたよー」  ミユはいつの間にか、俺の実家から送ってきた茶葉を見つけ出してお茶を淹れていた。 「それ実家から送ってきたやつ。俺コーヒー以外あんま飲まないんだよな」  だけど自分で淹れた時とは違ういい香りがする。 「このお茶はね、最初にじっくり蒸らさないと美味しくないんだ。上手くできたから、飲んでみて」 「あ、うめえ」 「でしょー! これいいお茶の葉だよ。私もありがたく頂いちゃう」 「お前、まさかお茶もオタクなのかよ」 「うーん、ちょっとだけだよ、ちょっとだけ!」 「ほんとお前はオタク体質だよなー」 「いいじゃん、人生豊かになるし!」  確かにそうだ。美味しいお茶はなんだか幸せな感じがする。  その後、腹が減った俺たちだったけど、吹雪いた中買い出しに行くこともできず、カップラーメンと冷凍チャーハンを半分ずつ分け合って食べた。 「ユウジ、不健康すぎるよ! 冷蔵庫になんにもないじゃん」 「家じゃ食わねんだよ、学食で十分だろうが」 「うー、晴れてたらジンカフェ行ったのに!」 「だったらここ泊まんねえだろ」 「あ、そっか。……いやともかく災害への備えも兼ねて食料確保はしておくべき!」 「こういう時のためにか?」 「そう!」 「じゃあ今度はやっとく。次はお前いないと思うけど。検証不可だな」  ケラケラ笑ってみせると少し拗ねて寂しそうな顔をした。え? そんな顔できるのかよ。女の子みたいな顔。 「心配して言ってるのに……」 「……あー、悪かったよ」  頭を掻きながら俺はとりあえず謝った。プイッとミユが顔をそむけ、席を立って窓際に行った。 「おい、どうした」 「……なんでもない。雪見てるだけ」  何だよ訳わかんねえなあ。ミユの肩を掴んで振り向かせると、泣いていた。 「な⁈ ……どうしたんだよミユ」 「ユウジなんか食べられなくて死んじゃえばいいんだよぉ……」  ぽろぽろと涙が落ちる。何だなんだ? 「どうしたよ、俺生きてるけど?」  顔を下から覗き込むと俺と同じシャンプーの匂いがする。なのにミユから香るといい匂いになってる気がする。今はグリーンに染まった長い髪。  涙を拭って顎を持ち上げた。 「もう、泣くなよ……」  えぐえぐ言って泣いてて全然可愛くない。でもなんか愛おしかったから、そのままキスした。俺を心配して泣いてくれる女の子なんて今までいなかったから。 「ユウジっ……あの、ねっ」  泣きながらその理由を話そうとしていたけど、その前に俺が口を塞いだ。いつもキャンディー食べてるだけあるな。すごく甘い舌で溶けそうだ。  来客用の布団が無い理由も話す必要が無くなった。俺たちは当たり前のように同じベッドで寝たから。初めてだったミユが怖がって俺にしがみつき、背中に残した赤い筋は長いこと消えなかった。  そして、消える前にまたミユが俺の肌に赤い筋を上書きするから、俺は他の女と寝る事ができなくなったし、その必要もなくなった。 「……お前さあ、彼氏の言う事たまには素直に聞けないわけ?」 「え? ユウジって、彼氏なの?」 「は? 何だよじゃあお前は俺の何なんだよ」 「だって、はっきり言ってくれないから……」 「勘弁してくれよぉ……」  ミユの頭を撫でてはっきり言った。 「俺はお前の彼氏で、お前は俺の彼女な?」  えへへ、と笑って、ミユはとっておきのお茶淹れてあげるね、ユウジの今一番好きな曲聴きながら飲もう?と言った。
/27ページ

最初のコメントを投稿しよう!

67人が本棚に入れています
本棚に追加