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シャワーから出た俺に、ミユが大きな声で言った。
「あ、ユウジ、お湯湧いたから勝手にお茶淹れたよー」
ミユはいつの間にか、俺の実家から送ってきた茶葉を見つけ出してお茶を淹れていた。
「それ実家から送ってきたやつ。俺コーヒー以外あんま飲まないんだよな」
だけど自分で淹れた時とは違ういい香りがする。
「このお茶はね、最初にじっくり蒸らさないと美味しくないんだ。上手くできたから、飲んでみて」
「あ、うめえ」
「でしょー! これいいお茶の葉だよ。私もありがたく頂いちゃう」
「お前、まさかお茶もオタクなのかよ」
「うーん、ちょっとだけだよ、ちょっとだけ!」
「ほんとお前はオタク体質だよなー」
「いいじゃん、人生豊かになるし!」
確かにそうだ。美味しいお茶はなんだか幸せな感じがする。
その後、腹が減った俺たちだったけど、吹雪いた中買い出しに行くこともできず、カップラーメンと冷凍チャーハンを半分ずつ分け合って食べた。
「ユウジ、不健康すぎるよ! 冷蔵庫になんにもないじゃん」
「家じゃ食わねんだよ、学食で十分だろうが」
「うー、晴れてたらジンカフェ行ったのに!」
「だったらここ泊まんねえだろ」
「あ、そっか。……いやともかく災害への備えも兼ねて食料確保はしておくべき!」
「こういう時のためにか?」
「そう!」
「じゃあ今度はやっとく。次はお前いないと思うけど。検証不可だな」
ケラケラ笑ってみせると少し拗ねて寂しそうな顔をした。え? そんな顔できるのかよ。女の子みたいな顔。
「心配して言ってるのに……」
「……あー、悪かったよ」
頭を掻きながら俺はとりあえず謝った。プイッとミユが顔をそむけ、席を立って窓際に行った。
「おい、どうした」
「……なんでもない。雪見てるだけ」
何だよ訳わかんねえなあ。ミユの肩を掴んで振り向かせると、泣いていた。
「な⁈ ……どうしたんだよミユ」
「ユウジなんか食べられなくて死んじゃえばいいんだよぉ……」
ぽろぽろと涙が落ちる。何だなんだ?
「どうしたよ、俺生きてるけど?」
顔を下から覗き込むと俺と同じシャンプーの匂いがする。なのにミユから香るといい匂いになってる気がする。今はグリーンに染まった長い髪。
涙を拭って顎を持ち上げた。
「もう、泣くなよ……」
えぐえぐ言って泣いてて全然可愛くない。でもなんか愛おしかったから、そのままキスした。俺を心配して泣いてくれる女の子なんて今までいなかったから。
「ユウジっ……あの、ねっ」
泣きながらその理由を話そうとしていたけど、その前に俺が口を塞いだ。いつもキャンディー食べてるだけあるな。すごく甘い舌で溶けそうだ。
来客用の布団が無い理由も話す必要が無くなった。俺たちは当たり前のように同じベッドで寝たから。初めてだったミユが怖がって俺にしがみつき、背中に残した赤い筋は長いこと消えなかった。
そして、消える前にまたミユが俺の肌に赤い筋を上書きするから、俺は他の女と寝る事ができなくなったし、その必要もなくなった。
「……お前さあ、彼氏の言う事たまには素直に聞けないわけ?」
「え? ユウジって、彼氏なの?」
「は? 何だよじゃあお前は俺の何なんだよ」
「だって、はっきり言ってくれないから……」
「勘弁してくれよぉ……」
ミユの頭を撫でてはっきり言った。
「俺はお前の彼氏で、お前は俺の彼女な?」
えへへ、と笑って、ミユはとっておきのお茶淹れてあげるね、ユウジの今一番好きな曲聴きながら飲もう?と言った。
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