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新しい会社で、彼は次々と自動運転に必要な技術を開発し、特許を取っていった。それは、地球物理学で地表を計測する時に使う技術を応用したものだそうだ。就職の役に立たないと捨てた学問が、実業で役立つことになるとは皮肉だね、と自嘲気味なメールが届いた。
3年後、彼の会社はI T大手に買収された。自動運転の技術と経営者も含めて丸ごと傘下に入る形となった。設立時から経営陣の一人になっていた彼も、おそらく高額の報酬を得て、買収会社のマネージャーになったようだった。
その日も一人でこの店に来て、カウンターに座った。マスターは黙ってミルクティーを出してくれる。
「昨日、彼に約束通り別れましょう、ってメールを送ったの」
「そうですか」
「彼は、彼の夢を追って成功したんだから、そのままどこまでも進んで行ってくれないと。私が3年間我慢していた意味がなくなっちゃうから」
「彼はなんと?」
「今度は君の番だから、あと2年頑張って夢を叶えてほしいって」
「そうですか」
マスターは、洗い上がったコーヒーカップを布巾でぬぐって私の前に並べている。
「やり直せるかなあ。彼以外の男の人と付き合ったことないから」
「恋愛だけが、人生じゃありませんから」
カップを置く手を止めて、窓の外を見ながら続けた。
「自分にまっすぐに生きていて、そこで触れ合う人がいれば、もしかしたら、また恋が始まるかもしれません」
「……」
「でも、無理に誰かを好きにならなければ、と焦ることはありませんよ」
「ありがとう」
じんわりと涙があふれてきた。
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