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「そこ、暇なら傘貸してあげる。先っぽに水つけて、絵描いてみ?」
「わたしやりたい!!」
ジョウロが軽くなったのを確認して、可波はそっと華子から離れた。
そして遠巻きに、芝生で座って見ていた千織の元へ行く。
「すごいな。泥酔さん、文章だけじゃなくてアートもできるんだ」
「ね〜、器用なんだよな〜」
「可波くんと息合ってて、ちょっと嫉妬かも」
「僕はなにもしてないよ。少し手伝っただけ」
千織の隣に座った可波は、苦笑いして再び華子を眺める。
あれだけ華子を避けていた子どもたちが、今は彼女を中心にして遊んでいる姿がまぶしい。
「あの、土塔くん。さっきはごめんね……?」
千織と逆方向から、恐る恐る声を掛けられた。
見れば、白ギャルの美々がちょこんとしゃがんでいる。その後ろには黒ギャルの里香もいて、こちらは立って頭をかいていた。
「うん。さすがに言いすぎた。マジごめん」
里香が片目をつむって手を合わせた。
「ネットだと人を困らせるイメージが強かったけど、実際会うと印象違うなって……。悪いことしちゃった」
美々も肩をすくめて謝る。
可波は首を横に振り、二人を許した。
言葉をかけなかったのは、せめてもの反抗かもしれない。
「お姉ちゃん!」
少女の声に、可波たちの意識がアート会場へと戻る。
ひとりぼっちだった少女が、華子のワンピースの裾を引いていた。
華子はツインテールを宙になびかせ、不思議そうに振り返る。
もうすっかり涙が引っ込んでいた少女サクラは、華子に向かってはにかんだ。
「あたし、大きくなったらのはすお姉ちゃんみたいな、かわいくてかっこいい人になりたい!」
「へー。……え。あたし!?」
意味を理解した途端、華子の目が大きく見開かれた。
「ずるい! あたしもぴえんのお姉ちゃんみたいになりたい!」
「俺も! ライバーなんだろ? 弟子にして!!」
「は!? ちょ、あたしはそんな……」
いつものように偉そうな大口を叩くと思いきや、華子は素で困っていた。
「ちょっとB班、なに散らかしてるの!? ってまた黒のあなたァ!?」
そんな彼女たちに横槍を入れるように叫んだのは、ボランティア責任者のメガネの女性。
冒険プログラムで森散策の引率をしてこの場を離れていたが、ちょうどA班の子どもたちと帰還したところにバッタリ。という感じ。
華子はメガネの女性を見て、顔を引きつらせる。
「げ」
「げ! じゃないですわよ! ボランティアしたいというから許可しましたけど、清掃もまじめにやらないし、散らかすし! くどくど! くどくど!!」
「うっ…………散ッ!」
大人に叱られ慣れてない華子はストレス耐性がなく、生理的に無理と判断したらしい。ワンピースをひるがえして瞬時に逃亡した。
そんなことと露ほども知らない女性。
華子がいなくなった後も、道のアートを見ながらくどくどぶつぶつやって子どもたちを困惑させていた。
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