12話 華ちゃんvsちーちゃん

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 仕方がない。  これが華子なのだから。  可波は苦笑して、代わりに謝ろうと立ち上がる。 「あ、待って!」  服の裾を引かれて止められた。  なぜか泣きそうな顔の千織に驚いてしまう。 「どしたの、ちーちゃん?」 「や、なんだろ。ちょっと苦しい……かも」 「病気!?」  可波は千織の前にしゃがみ込み、額に手を当てた。  確かに少し熱いかもしれない。  千織は視線を下げてうつむく。  自分の膝をきつく抱いて。 「違うの、そうじゃなくて。私、あの人が来てからちょっと胸がざわざわしてて」 「あの人?」 「うん。だって、可波くん、全然いつもと雰囲気違うんだもん!」  千織の目からぽとりと涙がこぼれたのを見て、可波の胸の奥が軋む。  ふと、高校時代の風景が頭をよぎった。  あの日も、後輩の女の子が突然、可波の目の前で泣いたのだ。 (――まじか)  そのときの彼女と千織の表情が、あまりにも似ていて。    可波は、千織の額から手をそっとおろした。 「……絶対、私の気持ち、気づいてると思ってた」 「あの……、ごめん」  考えたこともなかった。  だって千織は学校のアイドルで、誰にでも優しくて。可波に声をかけるのも特別ではなかったはずだ。  みんなから愛される彼女は、高嶺の花――。  そんな彼女が今、可波だけを澄んだ瞳に映している。  蠱惑(こわく)的で、めまいがした。  里香と美々が気を利かせて立ち去る気配がしたが、可波は真っ赤になった千織から目が離せなかった。 「そのごめんはどういう意味?」 「それは……」 「私は、可波くんの彼女になれる可能性、ない……のかな」  顔を伏せる千織。  まっすぐな言葉に、さらに頭が熱くなる。 「えっ、と……」  こんなかわいくて性格もいい子が、自分を好きだと言ってくれている。  人生が大きく動きそうな甘い誘い。  バクバクと早い鼓動に急かされる。  よくない感情がむくりとかま首をもたげて――。 「……ちーちゃんのことは好きだよ。うれしい」  4年前もそうして、流されるように後輩と付き合うことになった。  可波の強い好奇心と頼みごとを断らない性格の延長線であり、特に意味はなかった。  3カ月ほどのつたない付き合いで得たのは、あの子への強い罪悪感。  そして、自分に甲斐性がないことを再認識して、なぜか安心したのだった。 「……けど、少しだけ、時間もらえるかな」  知らない間に自分の心の中に生まれていた小さな変化に。  そして泣きそうな目の前の女の子に。  可波の胸はざわついていた。  余談になるが、その日、落ち葉アートの画像が通行人のSNSで大バズし、翌日には街の新聞とテレビにも取り上げられた。  華子の事務所にはボランティア団体から謝罪と、軽めに次回参加の打診が来たらしいが、可波から話を聞いていたマネージャーの君取が、本人につなぐことはなかったという。
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