13話 きみがクジラなら、僕はフジツボで

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  ◆◇◆◇◆◇  10分ほどで可波が支度してから、二人で街に出た。  バイト中とやっていることは変わらないと思ったが、街の様子はいつもと少し違った。  土曜日だからだろう。駅前はいつもより人通りが多い。  気をつけないとすぐ人の波に飲み込まれそうなものだが、華子は平日と変わらず、マイペースで突き進む。  可波だからよかったものの、マネージャーの君取だとはぐれていただろう。  ズンズン歩いていた華子が、急に足を止めて立ち止まる。  大きな商業ビルの前。  1階に入った本屋の大きな販促ポスターの前で、何かを考えるように立ち尽くしてから振り向いた。 「そういえば、あたしの誕生日は明日なんだけど、なんで今日が休みなの?」 「え」  初耳だった。 「たしか28さ……おっと」  可波は飛んできたパンチを軽々と避ける。 「そこはいいんだよっ……」  華子は当たらない拳を腰元で握り直し、悔しそうな声を絞り出した。 「なにそれ、もっと早く言ってよ。君取さんに伝えて休み調整したのに」 「別にいい。どうせ誕生日に予定なんてないし」  などと言いつつも、チラチラと何(べつ)もされる。  えっと……。 「僕でよかったら、今日、お祝いしよっか?」  華子の目の中に流星群が到来しているかのように、わかりやすく瞳が輝いた。  でもすぐに、ぷいっとやって。 「べ、別に。なんか、あたしが無理やり要求してるみたいじゃんっ」 「行きたいとことか、やりたいことってある?」  華子のツンデレはシカトした。  しかし聞いたものの、可波自身あまり質問にピンと来なかった。  華子はだいたいストレスが溜まると、やりたいことをやりたい放題していて、可波も毎回それに付き合っている。今さら改まってやりたいことなんて、特にないのでは。  それよりも物をあげたほうがいいのかも?  付き合ってもいない異性からのプレゼントだと、やっぱり消え物かしら。 「……かん」 「えなに? ピューロランド?」 「地雷系ばかにしてんのか? ちがう。……すいぞくかん、に行きたい、です」  あまりにも遠慮がちに彼女が口にしたのは、今までに二人で行ったどこよりもかわいらしい場所だった。
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