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◆◇◆◇◆◇
10分ほどで可波が支度してから、二人で街に出た。
バイト中とやっていることは変わらないと思ったが、街の様子はいつもと少し違った。
土曜日だからだろう。駅前はいつもより人通りが多い。
気をつけないとすぐ人の波に飲み込まれそうなものだが、華子は平日と変わらず、マイペースで突き進む。
可波だからよかったものの、マネージャーの君取だとはぐれていただろう。
ズンズン歩いていた華子が、急に足を止めて立ち止まる。
大きな商業ビルの前。
1階に入った本屋の大きな販促ポスターの前で、何かを考えるように立ち尽くしてから振り向いた。
「そういえば、あたしの誕生日は明日なんだけど、なんで今日が休みなの?」
「え」
初耳だった。
「たしか28さ……おっと」
可波は飛んできたパンチを軽々と避ける。
「そこはいいんだよっ……」
華子は当たらない拳を腰元で握り直し、悔しそうな声を絞り出した。
「なにそれ、もっと早く言ってよ。君取さんに伝えて休み調整したのに」
「別にいい。どうせ誕生日に予定なんてないし」
などと言いつつも、チラチラと何瞥もされる。
えっと……。
「僕でよかったら、今日、お祝いしよっか?」
華子の目の中に流星群が到来しているかのように、わかりやすく瞳が輝いた。
でもすぐに、ぷいっとやって。
「べ、別に。なんか、あたしが無理やり要求してるみたいじゃんっ」
「行きたいとことか、やりたいことってある?」
華子のツンデレはシカトした。
しかし聞いたものの、可波自身あまり質問にピンと来なかった。
華子はだいたいストレスが溜まると、やりたいことをやりたい放題していて、可波も毎回それに付き合っている。今さら改まってやりたいことなんて、特にないのでは。
それよりも物をあげたほうがいいのかも?
付き合ってもいない異性からのプレゼントだと、やっぱり消え物かしら。
「……かん」
「えなに? ピューロランド?」
「地雷系ばかにしてんのか? ちがう。……すいぞくかん、に行きたい、です」
あまりにも遠慮がちに彼女が口にしたのは、今までに二人で行ったどこよりもかわいらしい場所だった。
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