13話 きみがクジラなら、僕はフジツボで

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  ◆◇◆◇◆◇  どちらかというと、静かな水族館より遊園地のジェットコースターではしゃぐが好みなのだと思っていた。  でもよく考えれば、華子の外出はアドレナリン出すときや取材のとき。それが好みだと聞いたわけでもなかった。  水族館に入ってからの華子はいつものように騒ぐことなく、借りてきた猫みたいに大人しく水槽に見入っていた。  本当に好きなんだ……と、可波は感心する。  薄暗い室内とは対照的に、太陽の光が降り注いできらめく強化ガラスの向こう側。  種々雑多な魚たちは争うことなく、水中を揺蕩(たゆた)う。  目を輝かせ、水槽に張り付く華子の小さな顔を、きらきらと光の花弁が撫ぜていく。 「えっなに!? もしかして、あたしだけ楽しんでる? ごめん。カナミはつまんないよね……」  華子と視線がぶつかって、自分が彼女の横顔を長時間見つめていたことに気づいた。  意識すると恥ずかしい。  だけど可波が言い訳する前に、早とちりした華子は、犬が耳を垂れるみたいにしゅんとしてしまった。  そんなわかりやすい様子に、思わず笑ってしまう。 「ううん、楽しんでるよ。それに今日は華ちゃんが主役なんだし」 「ほんと!? じゃ、隣の水槽いこ!!」  すぐに機嫌が直るのも、彼女のチョロかわいい長所である。  華子に腕を取られた可波は、つい小走りになる彼女についていく。  カップルや家族連れの多い水族館を、二人でいろいろな水槽を見て回った。  ちなみに華子によれば、可波はカメに似てるとのこと。一切認めなかったが。  シャチに水をかけられたり、アシカの家族ショーに笑ったり。  大学の友人とも遊びに行くことはあったが、自分がここまではしゃいでしまうことに可波は少し驚いていた。 (そういえば、ちーちゃんにもそんなようなこと言われたっけ)  もしかしたら、華子には自分が思っている以上に心を許しているのかも。  そう考えると、少しくすぐったいような気持ちになる。  それから二人は、大きな水槽の前で足を止めた。
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