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「今日は、私とのデートなんだよ」
「そうだよね……」
「バイトバイトバイトって、可波くんずっとバイトのことばっか。もっと私のこととか……自分のことも考えてよ!」
寒さだけじゃない要因が、彼女の頬に赤みを与える。
ゼリーのように潤んだ瞳が真っ直ぐに向けられて、目をそらせない。
千織がデートの態度のことだけを言っているのではなく、可波がバイトに依存しないように、純粋に心配してくれているのがわかるから。
――謝らなきゃ。
だけど、どう伝えれば彼女が傷つかないだろうか。
そればかりが頭をぐるぐると巡り、なかなか言葉として出てこない。
「私って、そんなに魅力ないのかなぁ」
黙っている可波に、もう一歩、千織が踏み込む。
「私、可波くんに告白したよね? そんな相手と一緒にいるのに、他のこととか考えるかな?」
「ごめ……」
「もういい」
千織は可波をにらみつけて、離れた。
目元を濡らしていたが、彼女はそれをこぼすことなく。
「今日は帰るね。さよなら」
そう言って、きびすを返してひとりで歩いて行く。
可波はそんな彼女を呼び止めることができなくて。
新大久保の裏路地の真ん中で立ち尽くしていた。
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