14話 華ちゃんがスランプです

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 生放送の翌日、可波は仕事場に入れてもらえなかった。  そして翌々日の今日。  さすがに家に入れてはもらえたが、今度は「仕事したくない」の一点張りだ。 「あのさ、締め切り守らせるのが僕の仕事だから、このままだと二人ともクビになるよ?」 「そんなこと言われてもやだ。本当に無理! やりたくないの!」  クッションに抱きついて首をいやいやと振る。  また脳汁がどうのってやつだろうか。 「じゃあ気分転換にどこか行こ」  立ち上がって華子の手を取ると、思いっきり振り解かれた。  それだけではなく、なぜかすごい顔でにらみつけられる。  その態度に驚き、いつもぼんやりとしている可波も思わず目を見開いたほどだ。 「え? どしたの?」 「うるさい! 死ね! おまえのせいだ!」  理不尽だしいいがかりである。 「僕なにかした? えっと、ちーちゃんと出かけてたから?」 「!」  ……だったら、一概にいいがかりって言えないかも。 「ねえ華ちゃん?」  華子の前にしゃがんで、顔をのぞき込んでみる。  怒っているけど泣きそうな表情で、彼女の感情の正解が見えない。 「ちーちゃんと出かけて、カップルみたいな撮られ方したけど、付き合ってるとかそういうんじゃないよ」  言い聞かせつつ、どうしてこんな自分がこんな言い訳をしているのかわからなくなる。  それでも効果があったのか、華子がチラリと視線を向けた。 「…………どうせ、素直じゃないし」 「え?」 「とにかく、今はあんたの顔見たくないの!」  ちょっと痛いくらいには、ばしばしと殴られた。 「はあ。あたし、なんでこんなやつ……」  さらには、なんだかひどい言われようである。  可波はため息をついて立ち上がった。 「もういいよ、勝手にして」  きっとこれは粘ってもダメなやつだろう。  まだスケジュールがギリギリというわけでもない。  だったら、少しだけひとりにしてあげても。彼女もひとりで考えたいのかもしれないし。  可波は荷物をさっと拾い上げると、振り向きもせず自分の部屋に戻って行った。
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