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不貞腐れていた華子は、玄関ドアが閉まる音を聞いてのそりと体を起こし、ノートパソコンを手元に引いた。
画面はSNSを開いた状態だった。
華子は泣き腫らして重いまぶたを半分開けて、呆然と画面を見つめる。
サーチワードは「泥酔のはす」。
エゴサーチの最新結果に『痛い』や『頭おかしい』などのワードは前から出てきてはいたが、最近は『勢いがなくなった』『つまらない』などの批判も増えていた。
顔出しをしてアダルト関係の仕事をし、配信で炎上もしていればアンチも多い。
ネットでは擁護よりも、叩かれることや煽られることがほとんどだ。
それを毎日毎日浴びていて、普通の人間なら心が保つはずがない。
だから今まで「泥酔のはす」という衣をまとって、自分の心を切り離していたのだ。
それなのに――。
最近、心がざわついている。
「お姉ちゃんみたいになりたい!」
純粋な子どもの目が忘れられない。
「華ちゃんは華ちゃんだよ」
信じてくれているあいつのことだって。
――土塔可波。
彼が来てから、少しずつ華子は自分が変わっていくのを感じていた。
むくむくと、自分の中に鍵をかけて閉じ込めていた結野華子が、声を上げ始めている。
それは自分にとっては良くないことで。
できれば一生出てこないでいて欲しかった。
素の自分を抑えながら批判を浴びれば、今まで平気だった言葉も、致命傷とまでいかずとも、心に引っ掻き傷をつけていく。
「ううっ、ワーグナー……ワーグナー、助けて……」
素なんて押し込めたかった。
けれど、そう思っているということは、すでに手遅れだ。
華子として扱われるようになったときから、少しずつメッキがはがれていたのだから。
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