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「あ、すみません……。はい、家にはいるんですけど、ちょっと体調がよくないみたいで……。申し訳ないです。はい。絶対に今週末までには書いてもらいます」
事務所からのお叱りの電話を切り、可波はキャンパスのベンチにもたれかかって空を仰いだ。
こんなにいい天気なのに、気分は一切晴れなかった。
あのあとも、華子は頑なに書かなかった。
今までは最悪、締め切りギリギリになれば泣きながらでも書いていたのだが、燃え尽きてしまったように仕事と向き合わない。
このままだと華子自身も、事務所をクビになるかもしれない。
今までになかった急なトラブルで、事務所も騒然としている。
可波に温和なマネージャーの君取ですら、叱責の電話を寄越すレベル。
(はぁ。やっぱり、ちゃんと病院も調べておこ……)
学生課から借りてきていた分厚い電話帳を膝に乗せていると。
「あ」
少し先で歩いていた千織と目が合った。
ギャルたちに背中を押された千織はひとり、不服そうな顔で近づいてくる。
「……隣、座っていい? なにしてるの?」
久しぶりの甘い香り。
ピンクのワンピースに、白のもふもふなボレロを羽織った千織が、長い髪をおさえて可波の手元をのぞきこむ。
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