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「……泥酔さんの気持ち、ちょっとわかる気がする……」
「えっ、ほんとに?」
地獄に垂らされた蜘蛛の糸にすがるように、可波は反射的に聞き返す。
身を乗り出していた千織と、突き合わせた顔が思いのほか近くなり、顔を赤くした千織が先に体を引いた。
「ああもう、だからその顔っ。ほんとヤダ……」
手で顔を覆ってつぶやいてから、千織は可波に視線を送った。
「ネットではエグいアダルトライターしてるし、ヤバい人だと思ってた。でも、会ってみると印象が違った。可波くんがバイト続けてるくらいだから、悪い人、じゃないんだと思う」
「ありがと。彼女はいい子だよ」
「うん。……だったら、本当は仕事、すっごいキツいんじゃないかな」
「それはよく言ってるかも。でも、今までずっと書けていたのに、どうして急に……」
「そんなの、可波くんがそばにいるからに決まってるでしょ?」
決まっているでしょと言われても。
思い当たらずに黙っていると。
「可波くんが泥酔さんを、華子さんとして扱ってるから」
そう言って、千織は優しく諭す。
「アダルト系のために作った泥酔のはすってキャラに入り込めなくなったとか? ……なんだっけ、創作の神?を宿すなら、その器がしっかりしていないと、全部こぼれちゃうでしょ?」
可波の瞳が揺らぐ。
まさか、自分が良かれとしていたことが、華子を惑わせていたなんて思ってもみなかった。
「僕のせい……」
「とは言い切れないよ、可能性ってだけ」
すぐに千織はフォローをすると、萌え袖を口元に添えて考えるそぶりを見せた。
「理由は他にあるかもしれないし」
「他に?」
「SNSは活発に動いてるし、無気力ってわけじゃなさそうなんだよね」
「……ちーちゃんて、華ちゃんのこと、よく見てるね」
「っ!? で、でも、もしそうなら! 近くにいた可波くんなら、泥酔さんのこと、私よりもわかるんじゃない? ゆっくり考えてみたら?」
千織はごまかすようにコーヒーを手に取り、そっぽを向いた。
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