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可波は千織のまねをするように、口元に手を当てて今までのことを思い出す。
(他に理由? やりたいことでもあるのかな……)
本当は経験0なのに、世間にウケてしまってからはアダルト系の執筆をすることになったと言っていた華子。
皮肉のように、自分を作家と名乗っていた。
でもどうしてコラムニストなどではなくて、わざわざ作家という肩書きを選んだのだろう。
作家……といえば、リビングには若手の新書がたくさんあったっけ。
すべて献本だと言っていたけれど。
そんなにたくさんの出版社から、作家と名乗っているだけで出版をしたことのないアダルトライターに、送ってもらえるものなのだろうか。
水族館に行く前、街の本屋の前で止まったのも、考え事をしていたんじゃなくて新刊のポスターを見上げていた?
それを気づかれないように、慌てて誕生日のことを話した……。
いつも、同じ年代の若手作家たちと、自分を比べていたのだとしたら。
――ねえ、カナミ。あたしクジラになりたい。
「あ」
「思い当たった?」
コーヒーカップを置いて首をかしげる千織に向かって、可波はパンっと両手を合わせた。
「ちーちゃん、力を貸して!」
頭を下げる可波に千織は目を丸くしたが、すぐに呆れたように笑う。
「まったく。ほんと、こんな超絶かわいい女の子振っといていい性格だな?」
「それは本当にそう……。でも僕、今のちーちゃんのが前より好きだよ」
「ふん、そーゆーとこだよ、人たらしめっ」
千織はそう言うけれど、嫌がっている表情ではなくて。
嫌われてもおかしくないはずなのに、まだ付き合ってくれるという彼女に、可波は確実に救われていた。
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