15話 僕はきみの夢を諦めない

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 玄関を出て、到着したエレベーターに乗り込む。 「カナミ! どこ行く気!?」  追いかけてくる声を無視してエレベーターを閉め、1階を押す。  そしてエントランスから雨の中を飛び出した。  裏手に回ってマンションを見上げる。  華子の部屋を確認して、真下へと走った。  上階からばら撒いた紙の切れ端は、駐車場に広範囲で散らばっていた。  けれど雨が幸いし、落ちた紙は風で飛ぶことなく、真下に集中していた。  不幸なのは回収に時間をかけるほど、紙が水分を吸って読めなくなるということだ。 「やめてよ! ちょっと!」  遅れて降りてきた華子が走ってきた。  ずぶ濡れで紙を拾い集める可波を傘の下に入れる。 「なにしてんの、そういうのが迷惑なんだってば!」  パーカのフードを引っ張る彼女の手を振り払って、可波は振り返る。 「価値、あるよ」 「っ!」 「誰も求めてない? 誰も見向きもしない? そんなのは知らないけど、僕は読みたい」 「おもしろくないから、あたしの戯言(たわごと)なんてっ!」 「それを、なんで華ちゃんが決めちゃうんだよ!」  可波にしては大きな声で、華子はビクッと震えて息を詰めた。 「華ちゃんが心を騙して書いた嘘より! 読まれたくないって思う文章より! 心を乗せてる文章を僕は読みたいし、書いて欲しいよ!」 「ねえ、なんで……」  華子の漆黒の瞳が、ゆらりと揺れる。 「どうして……カナミが、そんな顔するのよ」  鏡がないから正確なことはわからないが、華子の表情を見るとろくな顔をしていないのだろう。  カッと熱くなり、可波はパーカの袖で頬をぬぐって顔を伏せた。  砂が肌を汚す。 「自分を悪く言わないで……。そんなときの華ちゃん、いつも苦しそうだよ」  雨が体温を奪って、可波はぶるりと震えた。  まだすべての紙を拾い切れていないことを思い出す。
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