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再び地面に視線を落として、手を伸ばした。
「いや、だからもういいって。やめて、カナミ。風邪ひくからっ」
拾う紙はどれもよくふやけていた。
水溜りの中に落ちたものも、手を突っ込んで拾う。
諦めない。
彼女が紡ぐ優しい言葉を、冷たい場所から救いたかった。
「華ちゃんが諦めても僕は諦めない。何度だって書けって言うよ。華ちゃんが嫌がっても、華ちゃんに嫌われても、絶対に」
華子がさしてくれる傘は意味をなさず、可波は横降りの雨に襲われる。
そうしているうちに、半分以上は回収できた。
あとは植栽に引っかかっているものだけ。可波は木の下へと走る。
「もうやだ! どうしてだよ。本人がもう興味ないって、やらないって言ってるじゃん!」
「華ちゃんは、そうした方がいいから」
「なにそれ、答えになってない!」
可波は水撒き用のホースリールに足をかけた。
プラスチックのリールも、おしゃれな植栽も、可波の体重を支えるほど丈夫ではない。
すぐに不安定な足場がグラグラと揺れた。
「カナミ、もうやめて!!」
「……あ」
転びそうになった可波の後ろから、華子がしがみついた。
ホースリールだけ横転し、二人は植栽の下で立ち尽くす。
「無茶なことはやめてよ……」
いつの間にか傘を手放していた華子も、しっかりと雨に打たれていた。
「書く……からぁ……」
涙と雨でぐちゃぐちゃになった顔で。
「だから、もう拾わなくていいっ!」
懇願だった。
それでも可波は諦めきれず、視線は植栽の上へと向けていた。
「でも、これがないと……」
「もう拾っても、そんなに濡れていたら文字なんて読めないんだってば!!」
「っ!」
本当は拾っている途中で気づいていた。
けれど、見ないフリをしていた。
努力は必ず報われる――くだらない幻想にすがるしかなかった。
「意味、ないんだよ……カナミ」
「……っうう」
現実を突きつけられた可波は、小さくうめいてへたり込んだ。
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