15話 僕はきみの夢を諦めない

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 3時間もしないうちに、盛大にエンターキーを叩く音が聞こえた。 「しごおわぁ! キミドリに送った。死……」 「お疲れさまー。何飲みたい?」 「その辺にストゼロが〜」 「飲ませたくないから聞いたんだけど?」 「……あったかい紅茶」 「はーい」  紅茶を用意してリビングに行くと、全力を使い果たした華子がソファに突っ伏していた。 「それで、あたしの小説なんて、どこで買ってもらえるっていうのよ。サブカル系のウェブサイトに売り込む感じ〜?」  クッションから目だけこちらに向けて、華子がぼやく。 「一般公募に出そうかなって」 「え。だって公募って、お金もらえないじゃん」 「え。むしろ泥酔のはす名義で小説出すつもりだったの? それ本音で書ける? ネタに逃げないって約束できる?」 「ぐっ」  図星だったのだろう。華子が目をそらした。  悪いけど、そういうところはお見通しである。  可波はリュックから冊子を取り出した。 「それで華ちゃんが仕事している間に本屋行って、どんなコンテストがあるか調べてたんだけどさ」 「ネットで見ろよ……」 「12月1日締め切りのこれとかどう? 原稿用紙150枚以上、上限なしのジャンルレス文芸賞〜」  新人作家発掘出版社賞と書かれているページを開いて見せる。 「……待て、今日は11月20日なんですけど」 「そうだね」 「あと11日しかないんだけど」 「あ、ちなみに11月29日にアップしてね」 「なんで締め切り早まってんだよ!!」 「余裕を持って、パーティーしたいので」 「いや、余裕持たせるくらいなら、もっと先の締め切りの……」 「華ちゃん!」  ぱんっとページを叩くと、華子が黙った。 「そんなに長く仕事をストップできません」 「そ、それもそうかもしれないけどさぁ。でもな、このスケジュールは鬼すぎ……。仕事でこんなことされたら爆ギレ案件なんだが……」  ぐだぐだぶつぶつ言う華子の頭を、可波は愛を込めて撫でる。 「華ちゃんならできるよ。それにできなくてもいいから、チャレンジはしてみよう?」 「うぅ……」  しばし視線を泳がせたあと、華子は観念して目をつむった。 「あーもう! わかった、やるよ!」  やけくそとばかりに叫んで立ち上がる。その勢いで、テーブルの上の紅茶が揺れた。 「短期集中でやってやるよ! だからカナミ! あんたはしばらく部屋に来ないで!」 「あれ、ひとりで平気?」 「逃げないってば。……あんたと約束したんだし」 「というか、ごはんとか」 「それは……レトルト置いといて。たった9日でしょ。その間レトルトでも死なないわ。それに集中してるときはあんま食べらんないし」 「それが心配なんだけど」 「うるさいなー、自分のタイミングがあるの! じゃないとこんなスケジュール無理だからね!?」  そう言われてしまったら仕方ない。  しばらく会えないのも寂しいけど、邪魔はできないし……。  とりあえず栄養がありそうなフリーズドライの味噌汁とか、作り置きとかも用意しておこう。 「カナミ」  華子に呼ばれて可波が顔を上げると同時に、首元に抱きつかれた。 「終わったら隣に呼びに行くから。だから……」  ちょっとだけ言葉を迷わせたあと。 「あたしのいちばんの読者になってくれる?」  「もちろん」と可波は微笑んで、彼女の額に自分の額を合わせた。
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