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そんな悲劇かはたまた喜劇から数時間後。
家なし職なし金もなしの限界大学生・土塔可波は、近所の公園のベンチに寝転がっていた。
小高い丘の上にあるため、街が一望できること。そして、人通りも少なく静かなところが、すぐに気に入ってしまった。
「ここをキャンプ地とするか〜」
一度は声に出したい日本語が、誰に聞かれるでもなくむなしく空へと霧散する。
大家さんからジャンジャン鳴る着信を無視して、可波はひとつあくびをした。
それにしても。
暖かい時期で良かったと思う。
冬だったら確実に凍死していただろう。想像するだけで脳天がシビれる。
(……ま。なるようになる……でしょう)
たくさんのものと一度に別れて胸はきゅうっとうずくけれど、反面、少しだけ高揚していた。
なぜなら、今までこんなことはなかったから。
失うものはもうなにもない。無敵な気分。
心地よい初夏の陽気がやさしくまぶたを撫でるのに身を任せて、可波はうとうとと船をこいだ。
「んもーっ! どこっすかーっ!?」
キャンプ地、早々に思ったのと違った。
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