10話・僕はもう、ここにいらないね

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 時間はさらに過ぎ、日が落ちて電気が必要になるギリギリまでねばりにねばって。  そろそろ食事の用意をしないと。と、可波は薄暗闇の中、体を起こした。  しかし華子の家の玄関を開けてすぐ、胸がざわついた。  玄関が暗い。  それだけでなく、その奥の部屋、リビングまで明かりがついていないのだ。  彼女は帰ってきているはずだったが、もしかしてまた見誤ったのか。  不安を胸に、電気をつけて廊下を進み、リビングの扉を押し開けた。  途端、ツンとした刺激臭が鼻につく。  黙って部屋の電気をつけると、答え合わせのようにフロアライトが状況を照らし出した。  だらしなくよだれを垂らした華子が、ソファでいびきを立てて寝ている。 「……」  ソファに転がるストゼロの空き缶を拾い、机の上にひとつずつ並べていく。昼間と変わらず真っ白なノートが目に映った。  いつもより強めに、華子を揺り起こす。 「んー……」  眠りから覚めた華子が、小さくうなった。 「なにしてんの」  思いがけず語気が強くなってしまう。  けれど、華子はのんびりと目を開けて「にへっ」と笑い、場違いに舌足らずな声を上げた。 「あー、カナミぃ」 「華ちゃん飲んでるね」 「ぜんぜん、ちょっとだけだよぉ」 「ちょっとって、ロング缶3本空いてるじゃん」 「えへへ、カナミが怒ったぁー」  華子はへらへらしたまま、可波が腕を引くのに身体をまかせ、自分の力で起き上がろうともしない。  しかも、ソファでライブ中に寝落ちしていたらしい。  華子が起きたことでコメント欄の動きが加速した。
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