10話・僕はもう、ここにいらないね

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「ごめんね。もうここには来ないから。君取さんにも僕から伝えとく」 「……ふんっ」  気まずそうに寝返りを打って、華子は可波に背を向けた。  このまま出て行こうとも思ったが、彼女と話すのもきっと最後になるだろう。  ここに来て楽しいこともあったのは事実だから。  可波は大きく深呼吸をして、彼女の背中に向かった。 「この数カ月、いろいろあったけど、楽しかったよ。華ちゃんには物足りなかったり、嫌な思いもさせたと思うけど……僕は感謝してる。今までありがとう」  最後まで背中は動かない。 「邪魔してごめんね。それじゃ」 「……だって、家はどうするの?」  可波がリビングを出ようとしたところで、華子が声を上げた。  振り返ると、華子はそっぽを向いてソファに座っていた。 「満喫とか……友だちの家とかに泊まらせてもらうと思う」 「別に、すぐにバイトやめなくても。ちょっとあたしも強く言い過ぎたっていうか、その……」 「考えたんだけど、華ちゃんの言う通りだと思う」  華子の言葉にかぶせるように、可波は少し声を張った。  怪訝そうな目がゆっくりと向けられる。そして、その大きな瞳がハッと見開かれた。  そのとき可波はうまく笑えずに、中途半端に泣きそうな顔を見せてしまったのだ。 「そもそも僕がいないときから活躍してた人だし、僕がいても意味ないんだよなって」 「ま、待ってよ。そんなこと」 「僕なんていない方がいいって、さっき華ちゃんが言ったじゃん」 「そ、それはぁ……」  目を泳がせる華子に、可波ははっきりと伝える。 「じゃあね、さよなら」 「え! ちょまっ!?」  別れの言葉を置いて、呼び止める声を無視して可波はリビングを出た。  後ろからドタンバタンと音がするのを振り切り、玄関まで一気に歩く。 「待ってよカナミ!? ちがっ」  華子の言葉を遮るようにして、後ろ手で思いっきり玄関を閉める。
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