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「ごめんね。もうここには来ないから。君取さんにも僕から伝えとく」
「……ふんっ」
気まずそうに寝返りを打って、華子は可波に背を向けた。
このまま出て行こうとも思ったが、彼女と話すのもきっと最後になるだろう。
ここに来て楽しいこともあったのは事実だから。
可波は大きく深呼吸をして、彼女の背中に向かった。
「この数カ月、いろいろあったけど、楽しかったよ。華ちゃんには物足りなかったり、嫌な思いもさせたと思うけど……僕は感謝してる。今までありがとう」
最後まで背中は動かない。
「邪魔してごめんね。それじゃ」
「……だって、家はどうするの?」
可波がリビングを出ようとしたところで、華子が声を上げた。
振り返ると、華子はそっぽを向いてソファに座っていた。
「満喫とか……友だちの家とかに泊まらせてもらうと思う」
「別に、すぐにバイトやめなくても。ちょっとあたしも強く言い過ぎたっていうか、その……」
「考えたんだけど、華ちゃんの言う通りだと思う」
華子の言葉にかぶせるように、可波は少し声を張った。
怪訝そうな目がゆっくりと向けられる。そして、その大きな瞳がハッと見開かれた。
そのとき可波はうまく笑えずに、中途半端に泣きそうな顔を見せてしまったのだ。
「そもそも僕がいないときから活躍してた人だし、僕がいても意味ないんだよなって」
「ま、待ってよ。そんなこと」
「僕なんていない方がいいって、さっき華ちゃんが言ったじゃん」
「そ、それはぁ……」
目を泳がせる華子に、可波ははっきりと伝える。
「じゃあね、さよなら」
「え! ちょまっ!?」
別れの言葉を置いて、呼び止める声を無視して可波はリビングを出た。
後ろからドタンバタンと音がするのを振り切り、玄関まで一気に歩く。
「待ってよカナミ!? ちがっ」
華子の言葉を遮るようにして、後ろ手で思いっきり玄関を閉める。
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