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ドアを背にし、うつむいたまま呼吸を整えた。
静まり返ったマンションの廊下が、心臓の音を際立たせた。
浸りたくもない感傷が、可波の身体に手を伸ばそうとする。
「…………さてと」
可波はドアから一歩ずれて壁に寄りかかると、ポケットから携帯を出して時計を確認した。
息を殺してしばし待機。
そう待たないうちに、爆発が起きたのかと思うくらい乱暴にドアが開かれた。
「あたしがんばるから! 行かないでカナ……どわっ!!」
勢いよく飛び出してきた華子に手を伸ばして受け止めて、可波は時間を確認する。
「うん、ハッピーより0.5秒早く飛び出してきた。さすが華ちゃん、いい子だねぇ」
「んが!?」
状況がわかっていない華子は、去ったはずの可波の腕の中で口をぱくぱくとさせている。
「それにがんばるって言ったよね?」
「だってそれは! っ!? ……い、言った……ました」
すべて可波の打った芝居だったと気づいてから、華子の勢いは風船の空気を抜くようにしぼんだ。
すっかり観念すると、華子は小さな声でとても苦しげに、胸中を吐露する。
「ううー、ごめん。あたし、やること多いとパニックになって、まじで無理なの。つらくて死んじゃいそうなの」
「うんうん、焦るよね。僕にもなにかできる?」
「……松岡修造とかギャルばりに『大丈夫!』『できるよ!』って、無責任に言い続けてほしい。あとたまに褒めてくれたら、それでいい」
「あはは、そんなのお安い御用だよ〜」
元気をなくし、素直に癖まで白状する華子。
そんな彼女をあやすように背中をぽんぽん撫でていると、華子の手が可波の背中へと回された。
「うん。でももうちょっと……もうちょっとだけ、このまま。どこにも行かないで」
逃がさないとばかりに、ぎゅっと抱きしめて。
消えそうな声で、可波の胸に顔を埋めてぐりぐりとしている。
ああ、このかわいさって、なんていうか。
本当に、放っておけないんだよなぁ。
「甘えんぼさんだね、華ちゃんは」
「はぁあ!? これには全く意味はないんですけど!?」
なぜか噛み付く勢いでキレられた。
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