11話・今さら「戻ってこい」と言われましても

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 可波は膝の上に置いた拳を見つめた。  不幸が重なった可波を拾ってくれた君取や華子には恩がある。  それに今のバイトは楽しくて、好きだ。 (だけど――)  可波は自分の役割を考えてみる。  仕事を辞めると、華子は少しくらい寂しがってくれるかもしれない。  けれど、バイトがひとり居なくなったくらいで生活は変わらないだろうし、すぐに慣れるだろう。  高校が別になった中学の同級生と、卒業式で約束した「絶対に集まろう!」を実行したのは最初の数カ月だけ。  会わなくなって4年以上経つが、今ではお互い連絡も取らない。 (僕たちもそうなるのかな)  寂しい気持ちを抑え込むように、強く拳を握りしめる。  それがスイッチだったかのように。  突如、可波の肩が重みで沈んだ。  可波が驚く前に、耳元でよく通る高い声が発せられる。 「ハッピーを不幸にしているのは、カナミじゃなくて、あんただよ!!」 「ぐあっ!?」  おだやかじゃない怒号と悲鳴。ゴツンという鈍い音。  弾かれるように顔を上げると、目の前で安東があごを上げて後ろにのけぞっていた。  通路には紙ナプキンが散らばり、周りのお客さんの視線が可波に集まっている。 (いや……僕、じゃない?)  肩に置かれている小さめな誰かの手。  その“誰か”を主張するように、黒い毛束が可波の頬をさらりと撫でた。
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