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可波は膝の上に置いた拳を見つめた。
不幸が重なった可波を拾ってくれた君取や華子には恩がある。
それに今のバイトは楽しくて、好きだ。
(だけど――)
可波は自分の役割を考えてみる。
仕事を辞めると、華子は少しくらい寂しがってくれるかもしれない。
けれど、バイトがひとり居なくなったくらいで生活は変わらないだろうし、すぐに慣れるだろう。
高校が別になった中学の同級生と、卒業式で約束した「絶対に集まろう!」を実行したのは最初の数カ月だけ。
会わなくなって4年以上経つが、今ではお互い連絡も取らない。
(僕たちもそうなるのかな)
寂しい気持ちを抑え込むように、強く拳を握りしめる。
それがスイッチだったかのように。
突如、可波の肩が重みで沈んだ。
可波が驚く前に、耳元でよく通る高い声が発せられる。
「ハッピーを不幸にしているのは、カナミじゃなくて、あんただよ!!」
「ぐあっ!?」
おだやかじゃない怒号と悲鳴。ゴツンという鈍い音。
弾かれるように顔を上げると、目の前で安東があごを上げて後ろにのけぞっていた。
通路には紙ナプキンが散らばり、周りのお客さんの視線が可波に集まっている。
(いや……僕、じゃない?)
肩に置かれている小さめな誰かの手。
その“誰か”を主張するように、黒い毛束が可波の頬をさらりと撫でた。
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