11話・今さら「戻ってこい」と言われましても

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 恐る恐る、頭の上を見上げる。 「うちのバイトに大層な物言いだな、オッサン」 「……華、ちゃん?」  あごをしゃくって安東をにらみつける華子が、可波の椅子の背に膝をかけて身を乗り出している。 「華ちゃんもしかして、僕のことつけてきた?」  振り返れば机の上に、パフェを食べた痕跡が見えた。  朝から緊張していたせいだろうか。ありえないことに、全く気配に気づかなかった。 「あああ、あたしだってカフェくらい行くし。そしたら、偶然(・・)あんたがいただけですけど?」  視線を泳がせて弁解するが、こちら隣の駅のなんでもない喫茶店である。  その言い訳は苦しいなと、二人は同時に思った。 「だ、誰だきさま!」  机に落ちたメガネを拾って、安東が怒鳴った。  可波たちの空気が張り詰める。  可波は安東から華子をかばうように立ち上がるが、華子は可波の肩から顔をぴょこんと出して。 「どーもぉ。こいつの今の雇い主でぇーす」  煽る。  得意の煽りが出た。  両者は黙ってにらみ合う。  間に挟まれた可波は、気まずいったらない。 「勝手に解雇しといて、戻って来いだぁ? おいおい、オッサン。虫がいいな」 「解雇は、こいつが妻と浮気をしないか心配だったからだ!!」 「はァン、それ自己紹介ってやつじゃないの?」 「ぐっ!? ななな、なにを根拠に! 無礼だぞ!!」  勘が冴えてしまった華子に対し、安東は顔を真っ赤にして、みっともなく大声でなんとかしようとしていた。  だが、華子は大声くらいではひるまない。 「失礼なのはテメーだろ。カナミが優しいからっておまえのいいように使おうとするな。ふざけんなよ。世の中に必要とされてないって誰が決めた? あたしは必要なんだよ、こいつのことが!!」 「ちょ、華ちゃん、危ないって!」  興奮して身を乗り出す華子を、可波は慌てて押さえる。
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