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◆◇◆◇◆◇
並んで帰り道を歩く。
いつもは喋り続ける華子だが、無言でふてくされていた。
怒っている。だいぶ。
「華ちゃん、ごめんね」
「なにが」
「僕が華ちゃんとこのバイトをやめようとしたの、気づいてるんでしょ」
「えっ、やめるつもりだったの!?」
あ、気づいてなかった。
可波はいよいよわからなくなって首をかしげた。
「じゃあなんで怒ってるの?」
「あいつに腹立ったのもそーだけど! ……あたしだって、カナミにひどいこと言ったから」
不安げに、もごもごと。華子は語尾を消極的にする。
可波は想像していなかった理由に驚いていた。
なにか言われたっけ? と、自覚なしである。
「カナミのこと、不幸を知らない顔って言ったことあるでしょ。ご両親がいないの、知らなくて……」
「あー!」
そういえば、華子がいっぱいいっぱいのときに、そんなことも。今まで忘れていたくらい、全く気にしてなかったのだが。
「ううっ、カナミごめんね……」
華子は泣きそうな顔で許しを請う。
……なんというか、きまりが悪かった。
「えっと、いるよ?」
「……え?」
「二人とも今も四国で元気にペットショップ・ドトーを営んでる」
「は? だって親がいないって、あいつ……」
「うん。必要以上に干渉されるの苦手だから、元バ先では、両親がいないことにしてただけー」
カジュアルに笑っている可波の隣で華子はしばし固まり、その意味を考えた。
全てを理解した瞬間。みるみるフグのようにふくれっ面になり、勢いよく可波を突き飛ばした。
「はああ!? 心配してソンッッしたぁ!!」
ぽかぽかと殴られて、可波は身をよじらせる。
「ごめんごめん! でもっ」
やったことはめちゃくちゃだったけど。
「突然現れて助けてくれて、ヒーローみたいだったよ。ありがとね、華ちゃん」
彼女の干渉は嫌だと思わなかったし、むしろうれしかったから。
殴る手を宙で止めて、あわあわと口を震わせている華子に、可波は穏やかに語りかける。
「もうどこにも行かないから安心して?」
「ひゃわっ!? ち、ちがっ! べつにっ、偶然あんたが絡まれてるのを見たから口出しただけで……! っ思い上がんなあっ! どっか行け、バカ!!」
見事に顔を真っ赤にさせてプイッと先を歩いて行く彼女を、可波はのんびりと追う。
どっかって言われても。
どうせ、帰る道は同じだ。
どこからかキンモクセイの香りが、風に乗って運ばれてきた。
いつかバイトが終わっても、華子とは縁が切れなければいいな。と、可波は思う。
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