11話・今さら「戻ってこい」と言われましても

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  ◆◇◆◇◆◇  並んで帰り道を歩く。  いつもは喋り続ける華子だが、無言でふてくされていた。  怒っている。だいぶ。 「華ちゃん、ごめんね」 「なにが」 「僕が華ちゃんとこのバイトをやめようとしたの、気づいてるんでしょ」 「えっ、やめるつもりだったの!?」  あ、気づいてなかった。  可波はいよいよわからなくなって首をかしげた。 「じゃあなんで怒ってるの?」 「あいつに腹立ったのもそーだけど! ……あたしだって、カナミにひどいこと言ったから」  不安げに、もごもごと。華子は語尾を消極的にする。  可波は想像していなかった理由に驚いていた。  なにか言われたっけ? と、自覚なしである。 「カナミのこと、不幸を知らない顔って言ったことあるでしょ。ご両親がいないの、知らなくて……」 「あー!」  そういえば、華子がいっぱいいっぱいのときに、そんなことも。今まで忘れていたくらい、全く気にしてなかったのだが。 「ううっ、カナミごめんね……」  華子は泣きそうな顔で許しを()う。  ……なんというか、きまりが悪かった。 「えっと、いるよ?」 「……え?」 「二人とも今も四国で元気にペットショップ・ドトーを営んでる」 「は? だって親がいないって、あいつ……」 「うん。必要以上に干渉されるの苦手だから、元バ先では、両親がいないことにしてただけー」  カジュアルに笑っている可波の隣で華子はしばし固まり、その意味を考えた。  全てを理解した瞬間。みるみるフグのようにふくれっ面になり、勢いよく可波を突き飛ばした。 「はああ!? 心配してソンッッしたぁ!!」  ぽかぽかと殴られて、可波は身をよじらせる。 「ごめんごめん! でもっ」  やったことはめちゃくちゃだったけど。 「突然現れて助けてくれて、ヒーローみたいだったよ。ありがとね、華ちゃん」  彼女の干渉は嫌だと思わなかったし、むしろうれしかったから。  殴る手を宙で止めて、あわあわと口を震わせている華子に、可波は穏やかに語りかける。 「もうどこにも行かないから安心して?」 「ひゃわっ!? ち、ちがっ! べつにっ、偶然あんたが絡まれてるのを見たから口出しただけで……! っ思い上がんなあっ! どっか行け、バカ!!」  見事に顔を真っ赤にさせてプイッと先を歩いて行く彼女を、可波はのんびりと追う。  どっかって言われても。  どうせ、帰る道は同じだ。  どこからかキンモクセイの香りが、風に乗って運ばれてきた。  いつかバイトが終わっても、華子とは縁が切れなければいいな。と、可波は思う。
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