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「いたっ」
可波が頭を押さえながら顔を上げると、頭上の木に、松ぼっくりが重そうにぶらさがっていた。
「ぷははは! お兄ちゃんだっせー! いってっ」
10メートルほど前にいた小学生男子が頭を押さえて、地面に転がった松ぼっくりを恨めしそうににらみつけている。
秋である。
「よっ。じゅんちょーかなぁ?」
ぽんっと背中を叩かれて振り向くと、可波の大学の友人、菅原千織が立っていた。
髪は耳の下でツインテールに結び、ぶかぶかのピンクのロンTに短パンとスニーカー。小さなボディバッグを肩からクロスにかけた、スポーティな格好が新鮮だった。
千織は右手に持ったトングを、カチカチと楽しそうに鳴らしている。
「突然誘ったのに、来てくれてありがとね、可波くんっ」
一昨日大学で千織に頼まれ、急きょ参加することになったボランティア。子どもたちと清掃をしながら、レクリエーションをするというプログラムである。
ボランティアには少し興味があったため、予定を調整して参加することにした可波だったが、自然いっぱいの公園を歩くのは思っていた以上に楽しかった。
「ううん。気分転換になったよ。……あ」
と、背中に小さな衝撃。
振り返れば、前にいた男子が何かを振りかぶり、もう一度投げて寄越した。
可波は二投目のそれを、ひょいっと避ける。
「あっ」
「あっ、て言ったな? これは反撃されても文句なしと見たっ!」
「うわーっ!!」
走って逃げ出す小学生を可波は追いかける。
すぐに捕まえて、小脇に挟んでぐるぐると振り回した。
別の子供たちが、可波の周りに集まってくる。
そんな光景を、千織はため息をつきつつも愛おしそうに眺めていた。
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