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カシェルから躊躇いと葛藤を感じた。
しばらくして、カシェルは私を引き離し「ありがとう、デイジー」と囁いた。
「だけど、ダメだ。400年も過去に戻ることは僕自身初めての試みだし、無事に過去に到着しても、犯人を突き止めた時に殺されるかもしれない。何事も無かったとしても、今のこの時間に無事に帰ってくることも保証出来ない。それに…」
「だから、目的を果たしたカシェルが私の元を去ったとしても、ひとりぼっちにならないように、たくさん友達を作るように進めてくれていたの?」
カシェルの行動には沢山矛盾があって、混乱した。
恋人を作ってもいいとまで言われたし。
だけど今、全てが繋がった。
私を利用しようと思いながらも、同時に私の事を考えてくれていたんだ。
私のそばからカシェルがいなくなっても、寂しくならないように。
そして、思い上がりかもしれないけど、本当に私の事を愛おしく思ってくれるようになったんだと思う。…最初はフリだったとしても。
そう信じたい。
何より私がカシェルと一緒にいたい。
「誰かと一緒に過去に行くのは、前世も含めれば初めてではないけれど…」
カシェルは少し考え、私の目線まで屈み、私の瞳を見つめる。
「わかった。じゃあ、今から1度練習をしよう。上手く行けば、1週間後に本番だ」
「練習?」
「うん。現在からそう遠くない過去に戻って、また現在に戻ってくる。途中ではぐれてしまう事もあるから。万が一はぐれてしまったら、その時代のこの教会で待っていてね。絶対探して迎えに行くから」
一瞬、過去に戻るのが怖いと思った。
例えば「1ヶ月前」に戻るとして、「昨日」の時点ではぐれたとしても、私はその日どう過ごせばいいのかと。
だけど私は、絶対にカシェルから離れない。
例えはぐれてしまっても…カシェルはすぐに迎えに来てくれる!カシェルを信じてる。
「わかった、大丈夫」
私達3人は教会の裏口から外に出た。
カシェルは左手の手袋を外し、その手袋を身につけるように言った。
「目印になるから」
私が作ってプレゼントした手袋。私はそれを左手に装着した。
カシェルは私の右手をとり、指を絡ませた。
「絶対に離さないで」
初めて触れるカシェルの手のひら。
同じ銀の魔力が互いに行き来する。
私自身、思った以上に緊張しているのかもしれない。
カシェルに比べて、ずっと冷たい手をしている。
神父様が、私達の絡めた手の手首にハンカチを巻き、縛った。
「お互いに信じる事が大事ですよ」
私は大きく頷いた。
「まずは3ヶ月前だ」
そう言ってカシェルは私を右手で抱き寄せる。
「僕に身を預けて。力を抜いて、そう、目をつむって…」
一瞬、突風がふいた。
「いいよ、目を開けても」
目をあけると、そこには金色の田園風景が広がっていた。
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