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風が徐々に収まり、フッと開放感とともに疲労感が襲ってきた。
「着いたよ。400年前の…僕が殺された日だ」
カシェルが手首のハンカチを解き、私からそっと離れた。
私達が身を潜めた物置部屋の入り口に、真新しい扉が取り付けられている。
部屋は薄暗く、扉の隙間から漏れる光でカシェルがそばにいるのがわかった。
「デイジー、大丈夫?」
カシェルは持ってきた水のボトルを私に差し出してくれた。
到着とともにその場に座り込んだ私。
本当は倒れ込んでしまいたいくらいの疲労感だった。
大きく息を吸い、吐く。
水のボトルを受け取り「大丈夫。ちょっと疲れただけ。カシェルのおかげで、気分は悪く無いから」と小声で答えた。
それを聞いてカシェルは休んで、と言わんばかりに私の肩を叩き、扉の隙間から向こう側の広間の様子を伺った。
私は水を二口ほど飲み、カシェルの前に潜り込み、同じく隙間を覗いた。
扉の向こうでは、十数人が食事を楽しんでいるようだ。
「中央にいる男が僕の前世である初代王。その左横が王妃。女達が王と王妃の娘達で、男達が魔力を譲りうけた魔法使いだ」
王様王妃様以外、皆10〜20代の男女。
王妃様は私と同じ、紫の瞳をしている。
他の方の表情や瞳はここからではわかりづらいけど、会話はよく聞こえた。
『いやぁ、皆。本当にご苦労だった』王様らしき人物が、上機嫌で話を切り出す。
『何言っているんですか、これからですよ。人が住めるのはまだこの地域だけですし、人口も増やさないと』
『作物を育てる畑も必要ですね。持ってきた食材だけでは、2〜3年が限界です。日光が無い状態で、上手く育つか…』
皆、口々に意見を言う。
『やはり太陽が欲しいですよねぇ』
『まぁそこは魔法で補って…』
『それより酒が欲しかった…』と王様。
『スミマセン、私達は飲めない方なので、気が付きませんでした』
その時、メイドらしき女性がワゴンに乗せたワインボトルを運んできた。
「あのワインだ…!あれに、毒が仕込んであった」カシェルは悔しそうにつぶやいた。
『ボルドーのワイン!素晴らしい!誰だい、こんな気の利いたことを!』
王様は自ら手元のグラスに注いだ。
『ワイングラスじゃなくて残念ね。私もいただけるかしら』
王妃様が自分のグラスを手渡す。
『おぉ、乾杯しよう。これからの、この星の、この国の新しい門出に!』
王様の乾杯の音頭と共に、皆手元の飲み物を飲んだ。
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