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『ずっと、この時を待っていたの。王を…この人を殺す機会を』
目的を達成した割には、とても嬉しそうには見えない。
『だってこの人、火に放り込んでも、水に沈めても、宇宙に放り出しても魔力があるから死なないのよ。怪我や毒でも…即死でもさせない限り、すぐに復活してしまう。首に引っかかったロープだったら、劣化させてちぎってしまうのよ。魔力がある限り、どうしようもないじゃない』
そうか。もともと王様は赤も青も水色も緑も銀も全ての魔法を所持していた。って王妃様、全て試したわけじゃ無いよね!?
『お母様は…お父様の事をお嫌いだったのですか?』
娘の問いに、悲しげに笑う王妃様。
『ええ、大嫌いだった。王はね、私が魔力を受け渡しできる能力を持っている事を聞きつけて、私を王妃に迎えた。…私には恋人がいたのに…ひどく強引な手を使って。そして私に国中の魔法使いから魔力を”核”ごと奪わせ、王はソレを我が物にした。生まれたばかりの娘の魔力すらね』
カシェルは黙ったままだ。
そのことを、覚えているのだろうか。
『恋人だった彼は何年もかかって反逆する力を得て、私を助けてくれようとしたわ。だけど、あと一歩という所で…王は地球を脱出したのよ!私たちを連れて!逃げたければ一人で逃げればいいものを!』
今まで抑え込んでいた感情が一気に爆発したかのように、王妃は話し続けた。
『こんな辺鄙で何もない星に連れてこられて…二度と彼に会えるわけがない。もう死んでしまおうかとも思ったわ。でも、こんな星でもあなた達は生きていかなくてはいけない。そして王は私を信じ切っているようだった。だから王に提案したの。この星の環境を作るために、王1人で全ての属性を賄うとなると、相当身体に負担をかけてしまうでしょう。信頼できる人物5人にそれぞれの属性の魔力を貸し出しましょう。そして、魔法の“核”ごと預けたほうが効率よく星の環境を作ることが出来る。“核”を渡せば、それぞれ自分で魔力を生成出来るはずだから、と』
「あ…」カシェルがふと声を漏らした。
『王に魔力が無い、この星の環境が整った今が最初で最後のチャンスだと思ったの。唯一地球から持ち出せたワインと毒。王はワイン好きだし、私が一緒に飲めば、油断して飲み干してくれると思った』
扉の隙間から広間を覗き込んでいたカシェルが、後ろによろめき座り込んだ。
『お母様…』娘たちが王妃に駆け寄り、泣き始めた。
『ごめんなさい、貴方たちのお父様を…』
ふと暗闇の中、カシェルの様子がおかしい事に気がついた。
「…カシェル?」
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