HIGH TEEN♡BIKI

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 海辺にバイクを止めて、一瞬マジに二度見した。 「母ちゃん!?」  思わず声を上げてしまった。こんな時間から浜辺でなにしてんだよ! 「おー。真彦お!」と俺に気づき、呑気な声をあげて手を振っていた。その時、母ちゃんを見て俺は一瞬マジに殺意を抱いた。 「母ちゃん! なんで俺のTシャツ着てんだよ!」 「おー、これオメのだったかー! 間違えて着ちまったよお!」  小柄で丸々とした、そのムッチリおにぎりババアは罪の意識が全くないようで、呑気にアハハーッと声を上げて笑っていた。おい! 笑い事じゃねえよ!  それは俺のお気に入りのマットローズの顔ティーだった。Tシャツにはそのご尊顔のどアップとカッコいい筆記体で『lovely Night』とプリントされている一点物だ。  しかし、ザ・美白小顔の日本人離れした端正な顔立ちのマット様は、悲しいことにLサイズ並の俺の母ちゃんの贅肉のついた腹と無駄にでかいおっぱいとも言えない脂肪の塊のせいで、無惨にも顔がはち切れんばかりにピッチピチに伸びていた。  そんな太陽が昇り始めて間もない美しい朝の出来事に俺は発狂しそうになる。 ……多分、アレだ、母ちゃんの病気が発動したに違いない。通称、マッ◯病。いや、俺がそう呼んでいるだけだけど『マッ○』とか『真△』とか『近■』とか見ると見境いがなくなる病気。きっと『Matto』を『Matti』と読み違えたに違いない。そんな母ちゃんは『Can⭐︎Do』が大のお気に入りだ。ちなみに俺の苗字は安藤です。  真夜中の天使(オール明け)だった俺は体力的にも限界で眠気がヤバかった。そこにこのメンタルブレイク。もうお気に入りのTシャツも伸び切って元に戻らないだろう。ショックで心が傷だらけになってしまった俺は漫画のように膝から崩れ落ちた。 「おーい! 桃子のせがれえ! 暇なら手伝え!」  母ちゃんの隣にいた野球帽を被るおっちゃんが俺に向かって叫ぶ。 ……げ! 魚屋のおっちゃん!  町内会で一番苦手な、べらんめえ口調のオッサン。キレると冷凍したままのサンマとかぶん投げてくるおっかない奴。高校の時、友人の頭にマジで刺さった恐ろしい記憶がある。  だから今、おっちゃんの命令を断ったら、絶対にその辺に落ちているウニとか投げてくるはずで、元甲子園優勝投手だってのも知ってるから、拒否した後のことを想像すると恐ろしすぎて、渋々CBX-400Fから降りて浜辺へと向かった。 「なんだタモリみてえな眼鏡しやがって」  Ray-banだよ! と言い返したかったけど、おっちゃんの下にはウニがゴロゴロ転がっていた。 「助かるわあ。さすが『優しさだけは捨てずに生きなさい』と口酸っぱく言って育てた甲斐があるわあ」  嬉しそうな表情にげんなり。腹にいるど根性マット様も口が横に伸び切って、なんだか笑ってるように見える。 俺は魚屋の鬼軍曹の指示で母ちゃんの前にに入って、砂浜に置かれた網を掴む。すると母ちゃんはポツリと言った。 「なんだか懐かしいねえ。こうやって一緒に地曳網やるの」 「……」 「あの頃は父ちゃんと三人でねえ……」  皮のツナギの背中側で母ちゃんの声が少し湿っぽく震えているのに気づいたけど、俺は何も言わなかった。そっと頬を寄せて泣こうとしてきたから、俺は背中で母ちゃんを乱暴に押し退けた。父ちゃんは家で気持ちよさそうに寝てましたけど?
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