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俺の腕を強く掴み、瞬きを繰り返していたコウの手から力が抜けると、コウは深呼吸を何度か繰り返す。
「大丈夫か? 息、苦しい?」
「いや、大丈夫」
「こんなおかしな物、何だか分からんが、誰かの悪戯だ。
とにかく家に電話するぞ。歩けるなら一旦家に戻ろう」
「嫌だ……」
「コウ、自分の身体を最優先に考えてくれ。予約なんか体調いい時に、仕切り直せば……」
「違うんだ、賢人。聞いてっ!
これ………もしかしたら、その……優一くんかも知れないって……」
「は? 優一くんが……何?」
コウと同じ心臓病を抱え、一年前に亡くなった彼の友人。
入院先の病院で同じ部屋になって知り合い仲良くなったと聞いた。
コウの家で、一緒にピアノを連弾していた楽しそうな姿を思い出す。
「彼とは何度となく病院で『また会っちゃったね』なんて事ばかりだった。
誕生日、クリスマス、お正月、そんな時に入院なんて事もお互い珍しくなくて……。
僕達は、次の自分の誕生日をちゃんと迎えられるのか、いつも不安に思ってた。
優一くんと、『二十歳まで生きられたら、少しでいいから一緒にお酒でも飲めるといいね。だからそれまで頑張ろ』って……。約束したんだ。
だからっ……」
亡き友との果たせなかった約束を思い、コウの目に涙が浮かぶ。
「そっか……。これは空にいる優一くんから、二十歳を迎えたコウへのプレゼントか……」
「うん、きっとそうだと思う」
コウが空を見上げ、俺はその視線を辿る。
さっき俺が見た光の滝は、優一くんからコウへのプレゼントを届けるための、天界からの使者だったんだろうか……。
柄にもないメルヘンチックな自分の思考に苦笑いしながらも、いつもとどことなく表情の違う月に、コウの願いを馳せた。
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