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後日談―カフェ③―
あの後、トイレには誰もいなかったと翔太くんに言うと変な顔をして首を傾げた。
あまりにも怖くて、さっき起こったことを全部、翔太くんに話したけど笑って相手にしてくれなかった。
もしかして、女の人がトイレに入っていったと思ったのは、俺の見間違いかもしれないと自分の記憶を疑ってたけど、わたしが聞いたあの声は絶対、幻聴なんかじゃない。
雨足が強くなって、マンションに帰ってくるころには、外はゲリラ豪雨みたいになってた。
「翔太くんに、泊まっていって貰えばよかったな……」
翔太くんなら、家に呼んでも変な誤解はされなかっただろう。でも、翔太くんは他の仕事もしてるしあまり無理は言えない。
あんな体験をして、誰もいない部屋に一人でいるのか怖い。
沙織に帰ってきてって言えばよかったかな。
でも、ひさしぶりにゆっくり彼氏と逢えるって、喜んでいた姿を思い出して結局連絡できなかった。
わたしは入浴を済ませると、パソコンの前に座って、発注業務とSNSの更新、POP作りをして気を紛らわせることにする。
お店のパソコンですればいい仕事だけど、とてもあの場所でやる勇気はない。
「…………」
あの店、前はコインランドリーだと聞いてたけど、あれだけ安いから事故物件ですか、て聞いたら、ランドリーの事故で亡くなった人がいるって言ってたんだよね。
そこはちょっと気になったけど、わたしも沙織も幽霊なんて信じないし、霊感なんて全くない。でも気にする人が多ければ不動産の価値は下がる。
だから安くなっているのも納得していた。
「調べてみようかな」
なにもない事を祈って、わたしは業務の手をとめると、検索することにした。
あの住所のコインランドリーの写真がいくつか引っかかる。ざっとみると、昭和っぽいものから、改装されてリニューアルオープンした平成に入ってからのものまである。
『〇〇町、最強心霊スポット。コインランドリー。雨の日に店の前を通ると赤い女を見るらしい……? 手前の交差点では事故が多発しているので、そこからきた霊だろうか。ここは霊道が通っていて霊がよく目撃されるという。二年前、不法侵入したカップルが狂死した噂もある場所だ』
『〇〇町のやばい心霊スポット、〇〇コインランドリー跡もあげたい。あそこは、〇〇町母子殺害事件があった一軒家跡地だし。あの辺りで古くから住んでる爺さん婆さんに聞けばわかる!』
赤い女には引っ掛かったけど、どのサイトもなんか怪しいな。オカルトサイト系のいい加減な噂じゃなくて、もっと……そうだ。
わたしは『□□県〇〇町、コインランドリー事件』で検索してみた。
『某日、ランドリー内で男性が死亡しているのが確認された。死因は心筋梗塞、なぜランドリー内に入ったのかは不明』
『〇〇年、山本タエ子さんがコインランドリー前で亡くなっているのが発見された。容疑者の山本洋佑(無職)は日頃から、母親のタエ子さんに暴力をふるい……口論になって殺害。助けを求めて力尽きたと……』
『ジョイフル不動産勤務、足立透さん(29)が〇〇コインランドリー内で死亡。事件と事故の両方で捜査中………』
わたしは指先が冷えて行くのを感じた。
ランドリーの事故死だけじゃない、もっとたくさんあるじゃない。
わたしは余計に怖くなって、最後に開いた人の記事を閉じようとした。
けれど、マウスがフリーズして言うことを聞いてくれない。焦ってどうにかしようとしていると、ウィンドウが勝手に動いて、開いていたエクセルにカーソルが向かった。
そして勝手にカタカタと文字が刻まれる。
『足立透さんは、最近職場でひとりごとが多くなり、業績もよかった、優秀な足立さんは、コインランドリーを、コインランドリーを、コインランドリーを、コインランドリーを、コインランド』
「いやぁ!」
わたしは悲鳴をあげてパソコンから飛びのくと、その瞬間に、落雷の大きな音が鳴り響いて停電した。
パニックになってスマホを取ろうとすると、わたしの背後にピッタリと誰かがいるのを感じた。
みんな し ぬ。
やけに間延びした男の人の声だと思った。わたしはそのまま意識を失った。
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