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結局みんな大聖女様のおかげ
そしてこの馬車が他のものに比べてかなり揺れが少ないのも、大聖女ロメリアがいるからこそである。
さすがにダーウィネット属王国の領地を出てしまうと加護の力が多少は弱まってしまうものの、ロメリア自身を媒体とした神々の力は馬車のひとつぐらい簡単に守護しうる。
おかげでかなり大きめの石が勝手に地面にめり込んだり、道端に落ちている枝に向かって勝手に風が吹いたりしてくれた。
「……大聖女様のご贔屓ってぇのは本当にすごいなぁ……」
「ええ。目の当たりにしても信じられないことばかりですよ、ははは……」
前方で馬を操る御者の感心したような声に乾いた笑い声をあげるアディーベルトは、馬車の前にあった小枝をコロコロと転がす薄緑色の精霊たちから目を逸らすと、自分の腕に巻かれた緑玉の腕輪にさりげなく視線を落とす。
女神シアスターにロメリアと同じぐらい気に入られたらしいアディーベルトは、『番』だと告げられたホムラとの婚姻の際、女神からこの不思議な腕輪を賜ってしまった。
『いずれ……ね。あなたの神力が必要となるわ。ロメリアは意地っ張りだから自分だけで何とかしようとするけれど、悲しいことに『人間の欲望』を欲する神もいるの。正直なところ、ロメリア以外の『人間』なんてどうでもいいけれど、あの子が命ある限りはあの子が大切にしているモノを壊されるのは許せないの』
そう言いながらふわりと腕が振られると、くるりと草の輪がアディーベルトの腕に巻き付いた。
いったいこれは何かと見つめようとした瞬間──カッと強い光が弾けてあっという間に消えると、そこには今ある緑玉の腕輪が巻き付いていたというわけである。
いったいこの腕輪に何の効果があるのかわからないが、とにかく手首にピッタリと嵌まってしまって取れる気配がない。
ちなみにホムラにも美しい腕輪が女神シアスターから授けられたが、そちらは極小の赤と青の菫が入った玉が嵌っている。
旅路は平和で、目を覚ましたヴィヴィニーアが外の景色を確かめ地図を見、今は退屈そうに自分の膝の上に頭を乗せる聖獣デュークのふわふわの毛皮を撫でているロメリアに向かって、この地域で採れる特産物を説明した。
長く続く果樹園を指し、春にはそれぞれ美しい花をつけることを教えると、ロメリアは興味深そうに緑濃いその木々を眺めるのを見て、ヴィヴィニーアもまたほんのりと微笑む。
国に──王都に──いや王城にいる間、何故かヴィヴィニーアはイライラと気持ちが昂り、ロメリアに八つ当たり気味に無理難題とも言える『城外での探し物』を言いつけたりもしたが、こうやって共に馬車に揺られているというのに、心はとても穏やかだ。
この違いは何なのだろうか──
「……あそこはまあ……おかしな結界がありますからね。国王夫妻や王太子夫妻には作用しないようだけれど。あなたのような『弱い者』は侮られて精神的に操られてしまうんですよ」
「は?」
「デュークがなかなか成長できなかったのは、そのせいです。あなたが精神的に幼かったままなのも。義兄上様よりももっと子供らしく育ってほしい……今ならその親心はわからないでもないですが……国王という立場にあっては、本来は許されない養育であり、王家に恨み持つ者に付け入られる隙ができました」
「そ…そんな………」
「まあ結局それも、わたくしが勝手にデュークに与えられていた毒を抜いたり、あなた自身が求婚者を退けたことで、余計な干渉ができなくなったのですが」
「……アレは求婚なんかじゃない……ハッキリ言って痴女乱入だ……いや止めて……思い出したくない……」
そう言うと顔を赤くしたヴィヴィニーアは頭を抱えて背中を丸めた。
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