1、人助け

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1、人助け

「それでは、失礼いたします!」 JR磯子駅近くのビルの一室、その玄関前で深々と頭を下げて挨拶をした。担当者の笑顔に送り出されてエレベーターで一階まで降り、ビルを出る。 派遣会社の営業になって早5年、大学卒業後入った会社はなかなか居心地がよく楽しく仕事をしていた。今は来月入ってくる新卒者のための派遣先の確保に余念がない。次の会社への来訪時間は1時間後だ、横浜駅近くの会社、JR京浜東北線に乗ってしまえば15分ほどで着く、どこかで時間を潰す必要があるな。とりあえずは横浜駅まで向かうかと歩き出した時、道の端にうずくまっている女性を見つけた。 「大丈夫ですか!?」 ためらうことなく駆け寄っていた、白髪混じりだが老女というには若い、70代になってまもないという頃だろうか。 「胸が……心臓が、苦しいの……」 女性は息も絶え絶えに言う、2月の寒空に脂汗までびっちりとかいていた。演技などではない! 「救急車、呼びますね!」 スマホを取り出し発信した、電話の向こうの落ち着いた声にこちらも分かる限りの情報を、震える女性の背中を撫でながら伝える。すぐに行きますとの声を聴いて電話を切った。 「持病はありますか!? いつも飲んでるお薬とか!」 「……ないわ……」 弱々しい声で答え、ううう、と呻きさらに身を小さくした。ああ、早く救急車、来て! 「連絡を……」
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