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女性は小さなカバンからスマホを取り出した。
「ご家族ですか!?」
「ええ……病院に行くなら、知らせないと……!」
ロックが外れるのを見て、そのスマホを受け取る。
「私がお電話します、どなたにですか!」
「孫に……ああ、今は授業中だろうから……学校へ……」
画面を見せながら連絡帳を開くと、女性は横浜第二高校だと告げた、スピーカーにしたまま発信すれば、2コール目で繋がる。
『はい、横浜第二高校、石原です』
声に反応して女性が名乗るけれど、小さな声はさすがにマイクが拾わないようだ。
「あの! フジエダです! いえ、私は通りすがりの者ですが!」
女性が名乗った名を繰り返す、電話の向こうで「はあ」と間抜けな声がした。
「フジエダさんが道端で具合が悪くなられて、今、救急車を呼びました! これから病院に運ばれるので、お孫さんに連絡をしたいと……!」
「ルイです」
お孫さんの名前だな!
「ルイさんに、お伝えください!」
言いながら思った、なぜ孫なんだろう。こういう時は旦那さんかお子さんではないのか、なぜわざわざ高校生の孫に──。
『ええ! わかりました! 藤枝くんに伝えます!』
緊急事態は分かってくれたらしい、病院が分かったらまた連絡をくださいと言って電話は切れた。
そうする間に救急車のサイレンの音が聞こえてくる、ああ、よかった、これで助かるんだと安心できた。
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