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マンションとビルの合間の道は、左右に大きな歩道がある一方通行の道だった。救急車はその道を塞ぐように停車する。
「あなたは」
救急隊員に確認された。
「すみません、完全な通りすがりで」
「そうですか──藤枝さん、家はご近所? ご家族、すぐに来られるかな」
付き添いが必要だということだろう。
「あの! さきほどお孫さんという方に連絡をさせてもらいました!」
多分頼れるのはその人だけ、そう判断できた。その人は高校生で今は学校だと伝えると、救急隊員は「そっかあ」とため息交じりに答える。
「あの! 病院までの付き添いでしたら、私が行きます!」
「え、でも」
私の姿を上から下まで見て救急隊員は言った、私が外回りの会社員であることは分かったのだろう。
「安心してください!」
私は胸を叩いて答える。
「取引先には連絡して後日にしてもらうことはできます! 病人をひとりにすることはできませんから!」
きっとお孫さんもすぐに来るはず、そう思って立候補していた。
付き添いなどいないならいなくてもいいのだろうが、いてくれたほうがありがたいのだろう、それならお願いしますと言ってもらえたので、私は救急車に乗り込む前に、まずは会社に電話を入れる。理解のある会社でよかった、代わりをやるから大丈夫だと言ってもらえた、私は安心して藤枝さんと病院へ向かう。
「お名前をよろしいですか?」
救急隊員に聞かれ、私は社員証を出しながら答える。
「はい! 内田陽菜と申します!」
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