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やさしい人は気がなくても冷たくしないのです
「なあに? あれ」
「セレナーデでしょう。恋の歌ですよ」
「誰に恋してるの?」
「それは……」
侍女が言い淀んでいるのを見て、お姫様は言いました。
「下手な歌ね」
冷たく言うのに侍女はうやうやしくうなずきながら、訊きました。
「衛兵に命じて、追い払いましょうか?」
お姫様はちょっと考えてから言いました。
「下手だけど、追い払ってはかわいそうね」
お姫様もやさしかったんですね。やさしい人は気がなくても冷たくしないのです。
でも、そのためにお姫様が聴いてくれているものだとマリオは思ってしまいました。それから、来る日も来る日も夕方になるとお城に出かけて、お姫様の部屋を見上げながら歌いました。
昼間に靴を作りながら詩を考え、散歩にも出かけずにギターを弾いて曲をつけます。……
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