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 小学校の卒業式、桜の舞うその日のことを今も忘れずに覚えている。    数年に一度、偶然としてやってくる少し早い開花、桜の舞う卒業式。    季節の変わり目の中で気まぐれのように桜の開花はやってくる。  まだ肌寒さの残る冷たい風と、暖かな太陽の光。  人と人の出会いと別れを彩るように、春の象徴として桜は毎年咲き乱れては散っていく。  体育館で沢山の人が集まる中、卒業証書の授与が始まる。  卒業生の中で、五十音順で一番最初だった青井優花さんは大きな声で「はい!」と返事をして、学年の中で最初に卒業証書を受け取った。  その時の大きな声と、凛として伸びた背筋、真剣な表情は、青井さんをよく知る僕にとって印象的だった。  青井さんはいつも笑顔を絶やさない人で、それは誰に対しても、どんな時でも変わらない。そんな青井さんの笑顔に癒されてきた人もきっと多いはずだ。  その卒業式を最後に引っ越しをした青井さん。  青井さんを次に見かけた時、僕の通う中学校に来ていた青井さんは、別の学校の制服を着ていて、名字も変わっていた。  それがどういう意味なのか、僕ははっきりとはわからなかったが、青井さんにとってそれは大きな転機であり、だからこそ、あの卒業式の時、”青井さん”と呼ばれた際、青井さんは大きな返事をしたのだと感じとった。  卒業式の日を大切な思い出としてずっと記憶しておこうと、もうその名前で呼ばれることはないということを強く意識しながら。  それが真相だったとして、どんな気持ちで青井さんはあの日を迎えたのか、僕の中でそれは想像でしかない事だけど、考えるだけで胸が熱くなった。  そういう自分ではどうしようもない変化は、長い人生の中で必ず訪れる。  それを人は乗り越えなければならなくて、まだ幼い心のままで、それを乗り越えようとする青井さんが、とても懸命で、その頑張る姿は、とても印象的で、確かな心の強さを感じた。  優しくていつも笑顔の青井さんにも、いろんな事情があるという事、そういうことを想像するだけで、何か僕の中で、大きな兆しを感じていた。
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