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赤尾 結衣
終礼が鳴った。
カバンを掴んで廊下にでると、すぐに「赤尾」と呼び止められる。
「進路希望調査、今日までだけど、どうした?あと提出してないのお前だけだぞ」
担任の田口だ。
私は仕方なく、「すいません」と振り向く。
殺風景だった田口の背景は、すぐに3組と2組と1組の教室から吐き出された生徒たちがにぎやかに歩く様子にとって代わられる。
私の後ろも同じくだ。
うちの学年は全部で8クラスあり、放課後の廊下はいつも帰る生徒の波があっという間にできてしまう。
クソ、これに巻き込まれる前に外へ出たかったのに。
三上映美が、こちらには目もくれずに「先生、さようなら」と私の脇をすり抜けていく。
映美は館川と西野と一緒で、三人は子犬みたいにじゃれあって歩いていた。
田口は「おお、気をつけて帰れよ」と変に間延びした声で映美たちを見送っている。
田口のやつ、私が三上映美と一緒に行動しなくなったことをもう知っているんだ。
そう気がついて、余計にいらだったものの、わざとそれに触れてこない田口のデリカシーには感謝した。
「川瀬先生も心配してたぞ。お前、一度くらい部活に顔出してみたらどうだ」
「はい、わかりました」
人の良い田口の丸顔に私は素直にうなずく。
でもそれだけだ。
田口はいい先生だし、本当に心配してくれているのはわかる。
でももう、あそこへ行く気はない。
三年の下駄箱はグラウンドに面している。
陸上部はウォーミングアップの最中で、川瀬はまだ来ていない。
夏特有の、濁った空気。
やる気と焦燥が混ざって、むりやり心を急き立ててくるあの呪いみたいな空気も、もう私には関係ない。
かつての仲間の誰かに見つかる前に、私は急いでそこを離れた。
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