爆弾

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こんな状況でも大粒来聖は無表情だ。 そろそろと腰をかがめて、理科室を出た私たちは壁伝いに廊下を進む。 理科室から東校舎への渡り廊下へ行くには職員玄関の前を通らなければならない。けれど、玄関はガラス張りだし、さすがにそこを通っては外にいる警察に見つかるだろうということで、私たちは一旦階段を上がり、2階の渡り廊下から東校舎へと移ることにした。 「ひっ」 2階に上がり、職員室前の廊下に差し掛かった私は小さく悲鳴を上げる。 廊下には体育の栗林が助けを呼びにきたときのものだろう血の跡がついたままだ。 そんなに量は多くないけど、職員室までずっと血痕は続いている。 一度傷を抑えた手で体を支えながら歩いたみたい。壁にも血濡れの手形がべっとりだ。 こんなの怖すぎるけど、前を進む大粒来聖が普通に無言なので私もがんばって平静を装う。 ここを越えると、手前に職員用トイレがあって東校舎への渡り廊下へと続く。 「あのさ、ちょっとトイレ寄っていきたいんだけど」 「まあ」 振り向いた大粒来聖がかすかに眉を持ち上げた。 こんな状況でずいぶんのんきね、とでも言いたげな顔だ。 わかる。わかるけど違う、いくら私でもそんな余裕あるわけない。 「勘違いしないで。トイレに映美がいるかもしれないから確かめたいだけ」 「映美?」 私は手短に映美が教室を出て行ったときのことを話す。 「あいつ、ついでにトイレ行きたいって言ってたの。うちのクラスから普通に職員室に来たとしたら途中にあるトイレはここと、3階の渡り廊下の手前のトイレでしょ。もしかしたら入ってる途中に犯人が来たとかで、どっちかに隠れてるかもしれないじゃん」 「そう」 全然興味なさそうに言った後、「いるといいわね」と大粒来聖が付け足す。 私は先に立ち、音を立てないよう慎重に女子トイレのドアを開けた。 個室は4つで、どこも扉は開いてる。 人のいる気配はない。 無意識に息を止めてたみたいで、私の口からは反動で大きなため息が漏れた。 良かった。 いや、良かったっていうのも変だけど。 中を見るまでは映美が無事で隠れてるってシナリオしか考えてなかったけど、最悪の場合、犯人が中にいることもあったわけだし、犯人にやられた映美が倒れてるってことだってあり得たのだと思うと、やっぱ「良かった」が一番先にくる。 念のため掃除用具入れも見てみたけどそこにも誰もいなかった。
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