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理科室
昼休み。
私はお弁当と三ツ矢サイダーを持って校内をうろついていた。
サイダーはさっき自販機で買ったばかりのやつで、まだ全然冷たい。
今朝も田口に進路希望調査書を出すように言われた。
無理でしょ、書けないんだから。
そう言えるわけもなく、「すいません、6月中には」とごまかす。
でも明日も明後日も持ってくる気はない。
まじでごめん、田口。
別に先生を困らせたいわけじゃないのだ。
というか、実際のところ先生より私の方が全然困っているというのが本音で、提出期限を三日も過ぎてさえ田口が強く言ってこないのは、私のそういう心情をわかってくれているからだろう。
だって私はすべてを失くしたばかりだ。
高三の夏に、これで焦っていないわけがない。
それにしても、さっきは超胸糞悪かった。
我ながらやめときゃいいのに、つい数分前のことを思い出して私は怒りを再燃させる。
怒りの原因は映美だ。
昼休みになったと同時に教室を出た私を、あいつはじっとり見ていた。
なんか用かよ。
非難を込めて睨み返したら、目をそらして館川や西野と何かひそひそ言い合う。
ああもう嫌、ああいうの、まじで嫌。
映美のやつ、よりによって館川や西野みたいな中途半端な半グレ女とつるむことないのに。
古い線香のクッサイ煙みたいな映美の視線が今もまとわりついているような気がして、私は雑に手を振る。
映美は最近ずっとあの調子だ。
教室だと腐れ線香視線にずっとさらされちゃうしと思って出てきたけど、ひとりで落ち着いてお昼を食べられるところを探すのはなかなか難しい。
マンガみたいに屋上なんて開いてないし、階段とか外とかに直接腰を下ろすのは汚いから絶対嫌だ。
他クラスの友達のとこ行こうかと思ったけど、いろいろ聞かれるのも面倒だし。
各学年のクラスがある賑やかな東校舎を出て、西校舎まで足をのばしてみる。
音楽室には吹奏楽部がいたし、美術室には美術部がいた。
多目的室みたいなよくわかんない教室はことごとく鍵がかかっている。
早く食べないと昼休みが終わってしまう。
私は足早に校内を駆けまわる。
最後にたどりついたのは西校舎の端っこにある理科室だ。
どうせここも鍵が閉まってんだろうな、と期待せずに手をかけたら、思いがけずスッと開いた。
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