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白女
最悪ってこんなにすぐ更新するものだったっけ。
呆然と、私は思う。
驚きで働かない頭でもわかる。
「服濡れた」より「デカいひとりごと&豚のような笑いを聞かれる」の方が断然最悪だ。
いるじゃん、誰か。ていうか、誰?なんで?
だって覗いた時は誰もいなくなかった?いつから?ていうか、誰?
とにかく超恥ずかしい。
恥ずかしすぎて逆に大胆になった私は、なぜか正面からじっくり相手の顔を見た。
「使う?」
白い腕の持ち主が、にこりともせず言う。
全然知らない子だ。
「そのハンカチ、予備のだから気にしなくていいわ」
腕も白いが顔も白い女で、ちょっとどうかと思うくらい無表情。
「ありがとう」
こっちもこっちで一連のキモさを帳消しにしようと、なるべくポーカーフェイスでハンカチを受け取る。
それが成功したのかどうかはわからないけど、どちらにせよ相手は無表情のままだった。
「あの、いつからいたの?」
「ずっと。それよりあなた、お弁当、食べるの?」
白女が私のお弁当を指さす。
「ああ、うん」
そう言う彼女もお弁当の包みをぶらさげていた。
もしかして、一緒に食べようとか言われるのだろうか。
「じゃあこれ、鍵。食べ終わったら閉めて私のとこ持ってきて」
「え?」
さっさと立ち去ろうとする彼女の背中に向かって私は慌てて声をかける。
「そっちは食べないの?」
「もう食べたわ。あと10分で昼休みが終わるから、あなたも急いだ方がいい」
そう言われて時計を見ると、確かにあと10分しかない。
慌てる私に構わず、白女はまたもや歩き出す。
「ちょっと待ってよ。ていうか私のとこってどこ行けばいいの?あんた誰?」
女は白い指をひらひら動かして、さっき渡してきたハンカチを指さし、広げるジェスチャーをする。
喋ればいいのに。
そう思いつつも言われた通りにやってみる。
よく見れば端っこに子供の持ち物みたいな律儀さで「3年1組 大粒来聖」と書いてあった。
私は首を傾げる。
3年1組はともかく、大粒来聖とはなんだろう。
書き方からすると名前なんだろうけど。
「なんて読・・・」
そう言いかけたときにはもう白女は理科室のドアをぴしゃりと閉めて出て行った後だった。
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