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第一部 その① 有賀優紀22歳
「千代田区霞が関。警視庁本部庁舎。別名桜田門。百年の耐用にも供しうることを目的として、一九八十年に竣工。地上十八階、地下四階。設計は岡田進一設計事務所」
有賀優紀22歳は、目の前の建物を見上げながら口の中で呟いた。
警視庁の二次試験合格の通知を受け取ったのが一週間前。
これで私もようやく警察官だと舞い上がった。ところが、思いもしないことが起こった。三次試験の面接を受けに来いという。
思いもしないどころか、頭の片隅にもない事態だった。連絡を受けた瞬間は頭の中が空白になり、次に新手の詐欺かと思った。
そもそも警視庁の採用面接は二次試験まで。誰に訊いてもどう調べても、それ以上の情報はなかった。三次試験があるなんて大学OBで警察官をしている先輩だって聞いたことがないというーー。
そんなことをあれこれ考えているうちに今日が来てしまった。
不安しかない……。
優紀は建物のエントランスの前で大きく深呼吸した。
張り番をしている制服警官が怪訝そうな顔でこちらを見ている。
「お疲れさまです」
深く一礼してエントランスをくぐった。小学生から柔道ひと筋。挨拶の元気さだけは自信があった。
面接時間は午後二時三十分から。あと二十分も余裕がある。けれど気持ち的にはまったく余裕がなかった。
受付を済ませ、胸をどきどきせながらエレベーターに乗った。十階で降りる。正面に『面接会場→』との貼り紙が見えた。
廊下の両側に並んだ扉のひとつに面接者控え室との貼り紙があった。ノブに手をのばすと、先に扉が奥に開いた。
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