希望

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希望

 誰も追ってきてはくれない。 「暗くなったら一人で歩いてはだめよ」 母が姉だけに言うのを何度も見てきた。 桜の角に建つアパート。 姉はその(うわさ)をどこで聞いたのだろう。 聞き返す猶予など与えられなかった。 「今日中に宿題終わらせないと、あの(ひと)がくるよ」 「わたしの言うこと聞かないと、夢にアパートが出てくるよ」 怯える私をいつも面白がった姉。 大好きなおやつを、 お気に入りのおもちゃを、 お小遣いで買ったきれいなヘアピンを当然のように()った姉。 姉の所業を両親に言うこともそれを信じてもらえる見込みも、 もの心ついた頃から恵里那(エリナ)には許されていなかった。 今も消えてしまった息子を捜し続けるお母さん。 その子はいいな。 そんなに優しいお母さんがいて。 それなら‥‥‥ 家を飛び出した時から、恵里那の中にはある考えが(またた)いていた。 じゃあもし、 その子を捜してあげることができたなら。 恵理那の足は桜の木に向かった。
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